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空白の一日
―――――一か月前に遡る。
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「中位先輩。先輩を名指しで『会いたい』という美少女が来てます」
「ん? 知り合いに美青年は居ても、美少女は思いつかないなぁ」
一番奥まった位置のデスクで、将之は後藤からの取次を受けた。
「美青年……? もしかして平野先生のことですか? 相変わらず仲良しなんですねぇ」
と後藤が言うと
「なに、なに? ラノさんの話? だったら私もまぜてくださーい! その後のシェアハウス生活を聞かせてチョモランマ2分の1」
耳聡く聞きつけた前田が脊髄レベルで反応した。
「後藤、前田君を黙らせて」
「はーい」
デスクですったもんだを始めた後藤と前田の脇をすり抜け、将之は客が来たという受付カウンターへ向かった。
そこには八旗高校の制服を着た敦が居た。
どう見ても男子高校生にしか見えない学ラン姿の敦に
(なぜ、あの分厚いメガネの下が美少女顔だと見破った?)
ある意味、後藤の慧眼に将之は畏怖した。
「敦君じゃないか。平日のこの時間にどうしたんだ?」
「ライオさ……じゃなかった、将之さん。今は自由登校だから、将之さんに頼みがあってきた」
切羽詰まった顔で言う。
「何?」
と将之が聞くと
「あのタラシの悪徳教師に正義の鉄槌を」
敦がカウンターに正拳突きの要領で真上から拳をドンと乗せた。
「えーっと……」
敦の通うのは、八旗高校。
タラシ。
悪徳教師。
そこから考えると、該当者は一人しかいない。
「もしかして、平野先生のことかな?」
さっき後藤が言ってた人物が浮かんで、苦笑いで確認すると
「そう。俺の言葉でそうと分かるってことは、ライオさ……いや、将之さんも同じように思ってたってことだな?」
にやりと敦は美少女顔に不似合いな悪い顔で笑った。
「いや、決してそうは思ってないけど」
と将之は言ったが
「言い訳がましい所が真実味増し増し」
敦は聞く気がないようだ。
「うん。もう、どうでもいいや。それで?」
「あいつをクビにして」
「唐突だね。人を解雇するなんて、簡単な理由ではできないよ」
「じゃあ、生徒に手を出したって言ったら?」
ぴくりと将之が反応する。
正直
(またか)
と思わないでもない。
どちらかと言えば
(出したというより、出されてたの間違いでは?)
とも思う。
「……ふうん。もう少し具体的に」
「吹山章と卒業後に付き合う約束してた」
「あはは。やりそうだなぁ」
と将之は笑った。
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