空白の一日

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空白の一日

―――――一か月前に遡る。 +++++ 「中位先輩。先輩を名指しで『会いたい』という美少女が来てます」 「ん? 知り合いに美青年は居ても、美少女は思いつかないなぁ」  一番奥まった位置のデスクで、将之は後藤からの取次を受けた。 「美青年……? もしかして平野先生のことですか? 相変わらず仲良しなんですねぇ」  と後藤が言うと 「なに、なに? ラノさんの話? だったら私もまぜてくださーい! その後のシェアハウス生活を聞かせてチョモランマ2分の1」  耳聡く聞きつけた前田が脊髄レベルで反応した。 「後藤、前田君を黙らせて」 「はーい」  デスクですったもんだを始めた後藤と前田の脇をすり抜け、将之は客が来たという受付カウンターへ向かった。  そこには八旗高校の制服を着た敦が居た。  どう見ても男子高校生にしか見えない学ラン姿の敦に (なぜ、あの分厚いメガネの下が美少女顔だと見破った?)  ある意味、後藤の慧眼に将之は畏怖した。 「敦君じゃないか。平日のこの時間にどうしたんだ?」 「ライオさ……じゃなかった、将之さん。今は自由登校だから、将之さんに頼みがあってきた」  切羽詰まった顔で言う。 「何?」  と将之が聞くと 「あのタラシの悪徳教師に正義の鉄槌を」  敦がカウンターに正拳突きの要領で真上から拳をドンと乗せた。 「えーっと……」  敦の通うのは、八旗高校。  タラシ。  悪徳教師。  そこから考えると、該当者は一人しかいない。 「もしかして、平野先生のことかな?」  さっき後藤が言ってた人物が浮かんで、苦笑いで確認すると 「そう。俺の言葉でそうと分かるってことは、ライオさ……いや、将之さんも同じように思ってたってことだな?」  にやりと敦は美少女顔に不似合いな悪い顔で笑った。 「いや、決してそうは思ってないけど」  と将之は言ったが 「言い訳がましい所が真実味増し増し」  敦は聞く気がないようだ。 「うん。もう、どうでもいいや。それで?」 「あいつをクビ(懲戒免職)にして」 「唐突だね。人を解雇するなんて、簡単な理由ではできないよ」 「じゃあ、生徒に手を出したって言ったら?」  ぴくりと将之が反応する。  正直 (またか)  と思わないでもない。  どちらかと言えば (出したというより、出されてたの間違いでは?)  とも思う。 「……ふうん。もう少し具体的に」 「吹山章と卒業後に付き合う約束してた」 「あはは。やりそうだなぁ」  と将之は笑った。
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