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「詳しく話を聞いた方が良さそうだね」
将之はキーボックスに向かい、「会議室1」と書かれた鍵を取り出した。
そこに、なんとか前田を取り押さえた後藤が
「この時期は、モンスチュがよく来ますねー」
と話しかけた。
「確かに。一昨年に門脇君が来たのも、この時期だね。
こうもモンスチュが来るのなら、高校の『自由登校』の見直しを検討してもらいたいもんだ」
将之は会議室の鍵を、どこか虚ろな目をして眺めた。
「あら、やだ! カウンターに来ているのは、もしかしたらツッシー君?」
後藤に取り押さえられて渋々パソコン画面に向かっていた前田が、カウンターで将之を待つ人物にようやく気付いた。
学ラン着た分厚いメガネ男子にはじめは分からなかったようだが、前田は入学式などの式典で何度か敦本来の姿を見たことがあった。
「おいでませ、委員会へー! 私が、文科省のお客様にお出しする最高級玉露を用意しまず斉彬は篤姫のパパン!」
敦が来たことで、だいぶはしゃいでしまい、うっかり素の前田になっている。
前田が入るとややこしくなると危惧した将之は
「後藤。前田君を来させないで、ね」
と頼んだ。
後藤は、
「り!」
と敬礼すると、給湯室に向かった。
やがて給湯室からは
「後藤、邪魔しないでぇぇぇ……!」
の声がフェードアウトしていった。
「なんか甲高い悲鳴が聞こえたような……」
「気にしなくていいよ。ここではよくあることだから」
「よく……あるのか?」
不安そうな顔をする敦を、将之は前を歩いて『会議室』へと案内した。
『会議室1』とプレートのかかった部屋の前で鍵を開けると、プレートをひっくり返し『来客中』の文字に替える。そして、扉を大きく開き
「どうぞ、つっしー君」
と笑顔で招き入れた。
会議室の中には、幅広のテーブルが1個に椅子が4脚。壁にはカレンダーと電波時計があるだけの質素な部屋だった。極力、刺激になるものを排除している意図を感じる。
「訳有ってお茶は出せなくなっちゃったけど、いいかな?」
手のひらを差し出し、座るように促すと
「いいに決まってる。俺は、茶を飲みに来たわけじゃない」
と言い、敦は将之の真正面の椅子に座った。
「第一、俺は緑茶が渋くて嫌いなんだ」
と言う敦に
(前田君、玉露出さなくて良かったようだよ)
と将之は思った。
「じゃあ、話を聞かせてくれる」
「もちろんだ」
敦は首を大きく縦に振った。
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