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「一応、規則だからメモを取らせてもらうけど、不快に思わないでね」
将之はテーブルの上に二つ折りになったバインダーを開く。そこには「記録用紙」と書かれた紙が挟まっていた。
「全然。むしろしっかり取って、あの悪徳教師の悪行を世間に拡散してくれ」
将之はバインダーを斜めに立てるように持った。
一瞬、敦は不審な目を向けたが、将之のメモを取るスタイルかとさして気にせずに話し始めた。
「章は、覚えている?」
「ああ、……確か」
将之の脳内で
(去年のお正月に先輩を初詣に引っ張り出し、2月には先輩と一緒にお茶して、ホテルに誘ってた僕の中ではブラックリストのかなり上位に位置するおしゃべりな子だな)
かなり偏った将之調べの情報が引っ張り出される。
「……覚えているよ」
「その章と、悪徳教師が理科室で抱き合ってた」
「へえええええええ」
やたらと「え」が多い気がする。しかも目が笑っていない。
「ちなみに、いつ?」
と聞けば
「今日」
と敦はすかさず答えた。
(……今日? 急な話だな)
顔には出さずに、とりあえず将之が「今日」とメモを取る。
「自由登校になってから、俺は章と平和な日々を満喫してた」
と敦が言う。
「平和……?」
「学校に行かなくていい日々。すなわち、平和」
(あ、それが「平和」の基準なんだ)
仕方なく将之は「学校に行くのは嫌。家が平和」とメモに書き込んだ。
「毎日、どっちかの部屋に行って、ゲームしたりゲームしたりゲームしたりしてた穏やかな日々だったのに」
(日々ゲーム三昧……と)
書き込みながら将之は(なんか、自宅警備な話だな。メモ取る意味あるのかな?)と思っていた。
すると、敦が
「あ! たまに章が勧めるDVDを観たりもする」
と慌てて付け足した。
「あ、そう」
(大した違いはない)
「だけど、俺は大抵途中で寝てしまうから、章がゲームしようと言ってくれる」
(……敦君は、長時間モノを観るのは苦手……と)
どんどん謎のメモが増えていくだけだった。
「その平穏な日々に、突然、章が何の前触れもなく消えた」
(章君、行方不明となる)
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