空白の一日

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「……」  いくら待っても、もう敦からの話は出てこなさそうだ。 (……どうやら先輩を訴えるのは、諦めてくれたみたいだな)  と判断した将之は、立てたバインダーの内側で口元を緩め、気付かれないようにほっと息を吐いた。 (敦君には悪いけど、あの人から『先生』を取り上げるなんてマネ、絶対にしちゃいけないんだ)  不意に、鬱陶しい金髪の同僚や煩わしい元教え子の顔が次々と浮かんだが、頭を振って追い払う。 (大学で「取れるんなら取っとこう」程度で、たまたま取った教員免許。それで、この仕事に就いたって言ってたけど……)  以前、なにげなく知己に聞いたことがある教師になった経緯。 (それでも「俺は人見知り」といって理科室に籠もる割に、面倒な子達をその安住の地・理科室に引き入れちゃうし、何かとややこしいことに巻き込まれがちのクセに、変なとこでお世話焼き)  そして今度は、目の前の真っ暗・敦に目が行く。次におしゃべりで知己にベタベタまとわりつく章や、細いつり目をなお細めて「ラノさんが」「ラノさんで」「ラノさんなのだ」と語る俊也が浮かんできた。 (ぶっきらぼうだけど、ちゃんと聞かれたことには本人なりに一生懸命応えてくれるとこは高校生の時から変わらない……)  わずか一年間にも満たないが、将之は高校の部活時代に、聞けば親切に色々と教えてくれた知己を思い出していた。 (だから、あの門脇君がこの人のことを好きになったんだろうし、章君が異常に懐いちゃったし……、何よりこの僕もあの人を好きになったんだよな)  そう思うと納得がいく。 (多分、あの人が気付いてないだけで『先生』が合っているんだろう) (だから、あの人から『先生』を取り上げちゃダメなんだ)
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