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「要は、章君を取り戻したいんでしょ?」
やんわりと刺激しないように声をかけると
「昔みたいに、章君の一番の友達で居たいってことなんでしょ?」
「…………………………違う」
長い沈黙の後に、俯いたままの敦が答えた。
(え? あれ? 僕としたことが、また読み違えちゃった?)
将之が度重なる見当違いに軽くショックを受けていると
「……友達……なんかじゃない」
と、敦は顔を上げた。
再び顔を上げた敦の目は、潤んでいた。
目の表面に水をいっぱいにたたえ、涙で満ちていた。
ぽたた……。
音を立てて水滴が落ちる。
敦の大きな瞳から、瞬きした瞬間に涙があふれ出したのだ。
それは分厚いメガネのレンズを濡らしただけでは収まらずに、将之との間を隔てるテーブルまで落ちた。
「友達じゃなく……、その、なんと言ったらいいのか分かんないけどっ。えーっと、つまりっ、章の中の一番はっ……一番は、俺じゃなきゃヤなんだっ!」
ぐずぐずとしゃくり上げ、目をごしごしとこする姿はまさに子供そのものだ。だが、いくら目を擦っても涙は一向にとまらない。
「ひどいよっ! 俺なんか4歳の時からずっと章のこと好きなのにっ。俺の方がいっぱい章のこと知っているのにっ。なんで、あんな奴の方がいいんだ?!
ずるい! あいつ、ずるい! たかが二年前に急にやってきて、章を横取りしやがって! 俺の方があいつの百万倍可愛いのにーっ!」
最後は「うわわんっ」とテーブルに突っ伏して泣き出してしまった。
「……やれやれ」
将之が深いため息を吐く。
「君の方が百万倍可愛いかどうかはおいといて……。欲しいものが手に入らなくて泣き喚くだけなんて、子供のすることだよ」
わあああああと声を上げて泣いていた敦が、ピタリと泣き止んだ。
「男なら、欲しいものは奪い取れ」
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