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力強く語り掛ける将之に、がばっと敦が顔を上げた。
眼も鼻の頭も真っ赤になっているが、どこか愛らしい顔の敦が
「奪い……とれ……?」
将之の言葉を噛み締めるように復唱した。
「そう。男なら、むざむざ相手の幸せ願って身を引くなんて馬鹿な真似しなくていい。欲しいものは奪い取れ」
「え……?」
「なんか俺の知っている男と違う」
「そう?」
「かっこいい男っていうのは、好きな者の幸せを願って黙って身を引くもんじゃないの?」
「はあ? それのどこがかっこいいの? それって単なる自己満足。ただの負け犬だよ」
「ま、負け犬?」
敦が目を白黒する。
「黙って去るのが、かっこいい大人の男じゃないのか?」
(全然黙って去る気なかったくせに)
だったらここに来るのは変だと敦の言動に矛盾を感じた将之は
「少なくともこんな所で泣きついて、他人にどうこうしてもらおうと思っているのは、大人のやり方じゃないね。お子様のやり方だ」
容赦なく指摘した。
「それは俺のことか?」
あからさまな皮肉に、一瞬、むっとした表情を浮かべた敦に、将之は微動だにしなかった。
だが、すぐに攻撃的な態度を改め、敦は
「……俺、そんなにお子様……だったか? 将之さん……」
上目遣いに尋ねた。
やはりどこか将之を頼りにしているのだろう。
「困ったときに人を頼っちゃダメだとは言わないけど、自分は一切努力せずに他人にどうこうしてもらおうと当てにする人間を、君は好きになれるの?」
「……」
「少なくとも、僕は、そんな君より自分で活路見出した平野先生の方が好きだ」
(俺……、すぐに章や将之さんや、いや親の権力とかもそうなるのかな。他人ばかり頼りにしていた……?)
黙って去る以前に、自分では何もしていないことに敦は少なからずショックを受けたようだ。
「一体、君はどんな力をもっているの? 他人ばかり当てにして、ちっとも君自身の力を見せてくれないんじゃ、章君だって好きになりようがないよ」
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