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「自分の殻に閉じこもってちゃダメだ。過去のことをとやかく言う気はないけど、今度ばかりはこれまでの自分から脱皮して、君のできることを精一杯やって見せたら?」
(俺のできること?)
「ムダかもしれないと諦めるのは、もったいない。ダメじゃないかもしれない。足掻くだけ足掻いてみなよ。自分の手でしか、自分の未来は変えられないっていうじゃないか。もしかしたら、それで活路が開けるかもしれないじゃないか」
「将之さん……」
もう、敦は泣いていなかった。
「分かった! 俺、俺自身の力で章を奪い取ってやる」
「良かったね。じゃあ、おうちにお帰り」
シューゾーのように熱く鼓舞していたかと思ったら、突然の冷遇。態度の温度差に風邪を引きそうだ。
(多分……だけど、この子だ)
将之は気付いてしまった。
(先輩が詳しく喋ってくれないからよくは分からなかったけど、二年前、やたらとゲームしたがる子に悩んでいた。時期も嗜好もぴったり合う。
……あれって、この子のことだったんだ(※))
ほとんど偶然の一致に近かったが、知己を悩ませていた張本人だと分かり、将之は自然と冷たい態度になっていた。
それで速やかな退室を願ったのだが、敦は
「それは無理。今は帰れない」
と、こちらも打って変わって情けない声を出す。
「え? どうして?」
(分かったんなら、さっさと帰れ)
「だって……家に帰ったら、もれなく章の前に突き出される」
「えーっと……、意味が見えないんだけど」
謎の隣人関係を知らない将之は戸惑った。
「……ライオさん……」
しばらく考えた敦は
「乗りかかった船だ。あんたんちに俺を泊めてくれ」
図々しい願いを、さらりと口にした。
「なぜ、そうなる?!」
当然の将之の反応に
「今、家に帰ったら絶対に章が来る。そうしたら俺は悪徳教師に勝つ作戦も立てられないまま、章に突き出される」
と敦が答えた。
「突き……出さ、れ……ちゃうの?」
いまいち事態を飲み込めない将之が
「じゃあ、章君に会わなきゃいいじゃない」
と言うが、敦は首を横に振る。
(※)二年前の敦主催の教師苛めゲームについて、知己は将之にヒントもらってました。https://estar.jp/novels/25782664/viewer?page=60
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