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「それはダメだ。うちの家族は全て章のイエスマンだから」
「イエス……マン?」
「皆、NOと言えない日本人になる」
(章君にいいように扱われているのは、敦君のご家族も、か)
「章の言うことは、我が家では絶対なんだ。いくら会いたくないって言っても『章ちゃんがわざわざ会いに来てくれているのに、何、言ってるんだ?』と突き出されるシステムなんだ」
恐ろしい逆セコ●である。
「よく分かんないけど……敦君」
「なんだ?」
「君、ご家族からよっぽど信頼ないんだね」
「違う。俺が信頼ないんじゃなくて、章が絶大な信頼を勝ち得ているんだ」
(章君……恐ろしい子っ……!)
将之も一瞬、白目になった。
「今、章に会ったら俺はいいように丸め込まれる。悪徳教師と戦う算段も整わない前に、適当に言いくるめられる。
……だから、まだ会えない」
(丸め込まれるだの、言いくるめられるだの……って)
どう聞いてもいい言葉には聞こえない。
かと言って
「だけど、僕んちというのは……」
これを承諾するわけにはいかない。
(もれなく君の大嫌いな悪徳教師が居るんだけど……)
「……困る」
ぼそりと本音を口にすると
「家がダメなら、ホテルに泊まるっていうのでもいいぞ」
なんとなく敦が譲歩した感じになっている。
「いや、その代案も全然ダメなんだけど」
「景観のいい高級ホテルとかじゃなくて構わない。そこら辺の高級ホテルのスイートルームでもとってくれたらいい」
どうやら高級ホテルは譲れない所ならしい。
「さりげなく、お高い要求しないでくれる?」
「じゃあ、ダブルの部屋でもいい」
「僕がよくない。そもそもどうして、一緒に寝たがるの?」
「一緒に寝て、俺の耳元で『欲しいものは奪い取れ』と一晩中囁いて欲しい。そしたら、俺の決心は揺らがない確固としたものになる」
敦は睡眠学習を所望していた。
「そこは自分でなんとかしようよ」
「あんたの退勤時間まで、俺、下のカフェで待ってるから」
「僕、今日はお仕事いっぱいあるんだけど」
と言う将之の話を、敦は全然聞いていない。
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