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「それで僕らも、あのミスコンの後に不動産屋さんに行って、一緒に住める部屋を探したんだ」
章は、元々そのつもりだったのだろう。行動が早い。
「敦ちゃん、世間知らずの寄木細工からくり箱入り息子だから」
(どんだけ箱に入ってんだ?)
今、またナチュラルにディスられたが今回のは難解なディスりな為、敦は気付かず、知己も睨まれずに済んだ。
「最低でもオートロックでウォークインクローゼットのロフト付き。最低でも4LDKがいいとか、最低でもコンシェルジュ付きとか言うんだけど」
(何故、何回も「最低」という言葉が出るのだろう)
もはや枕詞かというくらいに、条件に『最低』が付けられ『最低』という言葉の本来の意味を見失っているように思われた。
「そこは眼鏡を取って黙らせて、2LDKにした。もちろん、コンシェルジュは付いていないよ」
「……眼鏡を取って、黙らせる?」
章の謎の行為に、知己が聞き返した。
「あれ? 先生、知らなかったの? 敦ちゃん、超弩級のド近眼だから」
何気に「ど」が多い。
「コンタクト入れてない時は、眼鏡を取ったら『眼鏡、眼鏡』と探すのに一生懸命になり過ぎて、その時やってることがおざなりになっちゃうんだ」
今回は不動産屋の交渉で、章はそれを実行したらしい。
「それ……、早く教えてほしかった」
恋敵と勘違いされ、敦に難癖付けられる日々が山の如しだった知己は心底そう思った。
卒業式当日に、問題児・敦の取説聞かされても、何のお得感はない。
「過保護な敦ちゃんご家族も、『敦ちゃん一人だと心配だけど、章ちゃんが一緒なら安心』と僕の提案は十分な審議もなく、すんなり通ったんだ」
(さすが、章の発言には全てイエスマンの敦ご家族……)
なにげに敦の家族まで軽くディスっているが、知己はもはや突っ込む気にもならなかった。
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