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「そうだったね。敦君から全部聞いたんだってね」
将之がそう言うと、敦が申し訳なさそうに章の背中に隠れた。
(……ほんとにこいつ、将之に対しては可愛い態度取るよな)
知己が横目で見ていると、知己の視線に気付いた敦はぷいとそっぽを向いた。
(あー。ほんと、俺に対しては可愛くない……)
「敦ちゃんを責めないであげてよ。それがミスコン頂上決戦の先生側勝利の副賞だった訳だし。
でも、敦ちゃんが喋る前から、僕は大体分かってたよ」
「変だな。敦君は、僕の名前は出さなかったと思うけど……」
「うん、そうだよ。敦ちゃんの名誉のためにも言うけど、頑なに名前だけは言わなかったなから」
意味ありげに章が笑う。
(だけど、あの勝負をしようってなった時点で、ほぼ将之だとバレてたよな)
と知己は思った。
「俊ちゃんも蓮様も喪女もみーんな先生に投票する中、将之さんだけはちゃんと敦ちゃんに投票してたから、この勝負の意味を正しく理解しているんだなと思ったよ」
勝負の意味……勝った方が章と付き合う話である。
わざわざ「賞品・本日の主役兼司会」とたすきに書いてあったのに、ほとんどの者が気付かなかった。それというのも、章が敢えて「賞品」の文字を客席から見えにくい肩の位置にかけていたというのもある。一番は、その文字を俊也に書かせたという点が大きい。俊也の文字は、採点する教師たちを悩ませる超難解なくせ字であった。その為、観客の多くは「なんか書いてある」「司会?」ぐらいにしか気に留めていなかったのだ。
「あの投票システムはいけないね。誰に投票したか、すぐにバレちゃう」
苦笑いを浮かべる将之に、
「俺、一生懸命不正できない投票システムを考えたのに」
俊也はしょぼくれたが、
「俊也、気にすることはない。この件に関してお前が悪い所は一個もないぞ」
知己は、すかさず肯定した。
「あの日以来、何かにつけて『お前は俺よりも敦の方がいいんだな』と先輩が意地悪言うんだよね」
と将之が言うと
「俺の考えた投票システムで、将之さんが不幸になったなんて。なんだか哀しいような、それでいて妙に嬉しいような……」
俊也が両極端な複雑な思いで戸惑っていると
「やっぱり尻に敷かれているのか、将之さん?」
敦は敦で、心配そうに章の背後から将之をうかがった。
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