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「言っとくけど……」
章が将之に向かって話しかけた。
「卒業したからって、これっきりだなんて思わないでね」
(なぜ、俺ではなく将之に言うんだ?)
ケータイ綱引きに勝利し、知己は画像をフォルダごと削除しながら章の言葉を聞いた。
言い方はめちゃくちゃ不穏な空気を孕んでいるが、やはり章も将之に懐いているっぽい。
(ケーバン交換も言い出したくらいだし……。よっぽど頼りにしているんだな)
知己は、俊也に携帯を返しつつ思った。
(なんで、こいつがいいんだ?)
じろりと将之を睨めば、将之は嬉しそうにしている。
睨まれようがなんだろうが知己が自分を見るのは嬉しいのだ。
(自信家め。自惚れやがって)
やっぱりどこかイライラした感情に、知己は困惑する。
(俺の方がこいつらとは付き合い長いはずなのに、何かにつけて『ライオさん』『ライオさん』と懐きやがって)
大体、将之が『ライオ』として敦達に関わって何か良いことをしただろうか?
(余計な勘繰り入れて事態をややこしくしただけでなく、敦の脳をドピンクに染め上げたり、卒業前の章を賭けた謎の勝負をけしかけたり、俊也に至っては妄想学習法なんぞ教え込みやがった。……あ、これは結果として良かった……のか?)
俊也が卒業単位取得には一応一躍買っている気もしないではないが、知己的には割り切れない。
(章に関しては、余計なことしか喋ってないな。敦が俺のことを好きだと、全く根拠ないというか大暴投の推理してたし)
やはり、どう考えてもロクなことをしていないのに、なぜこんなにも慕われるのだろう。
(……ムカつく)
単純に章達に信頼されている将之にヤキモチを妬いているのかと思っていたが、これは多分、違う。
(俺の方が、こいつらとは付き合い長いのに)
と思ってしまう。
(いやいや、何言ってんの、俺。こいつら、ようやく卒業できて万々歳な筈なのに)
「卒業しても、まだ先輩に絡みたいってこと? だからわざわざそんなこと言うの?」
将之が知己から章に視線を移せば
「そんなうざいことはしないよ」
と章が言った。
「僕らが卒業したからといって、先生を泣かすようなマネしたら許さないからね……ってことだよ」
ひとさし指で将之を指さし、何かの決めポーズを取っている。
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