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(……え?)
「僕らが二年間大切に守って……じゃなかった、お守りしてきた先生なんだからね」
(え? 俺、こいつらに守られてたの?)
どう考えても弄られた記憶しかない。
「その先生を泣かせると、どうなるか分かってる?」
「どうなるの?」
期待に満ちた顔で将之が聞いた。
(楽しむなよ。性格悪いな)
と心の中で知己が突っ込む。
「梅ノ木グループが全力でただの公務員の将之さんを潰しちゃう」
「大した脅しだ」
将之が苦笑いを浮かべる。
(なんで章まで、梅ノ木グループの権力を笠に着てんの?)
敦や梅木家ばかりか、梅ノ木経済グループまでも手中に収めたかのような発言だ。
しかし、当の敦が異を唱えないばかりか、章の背後でうんうんと頷いてさえいる。
「ということは、それは敦君も同意ってこと?」
将之が面白そうに聞けば
「まあ……、そんなとこ。悪徳教師の存在には嫌な思いもいっぱいさせられたが、なんだかんだと世話になった……とは思う」
ぶすったれつつも敦が答えた。
(わー。すっかり敦もイエスマンに……)
健全な意味で章の調教済みなのだろう。
知己にもようやく素直な気持ちを吐露した敦は、きまり悪そうに答えた。するとなんだか卒業のここにきて、ようやく可愛く思える。
せっかくそう思って見つめていると、
「そんな、にやけた顔するなー!」
すかさず「ふしゃー!」と猫のように威嚇して怒られた。
「だからといって、俺は絶対に礼など言わんぞ! 大体、『生徒の世話をする』というのが教師の仕事なんだからな!」
知己が
(教師の仕事って、そうだったっけ?)
と思いながら、敦をしゃーしゃーと毛を逆立てている猫を見ている気分になっていた。
「ダメだよ、敦ちゃん。『ありがとう』と『ごめんなさい』が言えない人間になっちゃ」
と章が、威嚇する敦の頭をぐいと押さえつけた。
「ありがと、先生」
章がペコリとお辞儀交じりに言うと、下げられた頭のまま、敦も顔も見せずに「……がと」と消え入りそうな声で言う。
すると今度は俊也も
「俺も先生に『ありがとー』、だ!」
鼻息荒く参加してきた。
「そして先生が泣かされた時は、梅ノ木グループ傘下も全力で将之さんを潰しにかかるし、俺が先生を迎えに行くんだからな」
と知己に親指立てて言うのだった。
(あれ……?)
三人三様の言葉を聴いてたら、知己のさっきまでのイライラした気分はいつの間にか消えていた。
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