4月はもう目の前 3

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「今度の学校は『八旗高校』か……。うまくやれるかなぁ?」  知己が不安げに呟く。  これまで知己の居た学校は、県下進学率トップクラスの東陽高校。門脇や門脇に便乗して悪さをする生徒も数人いたが、きっと、その比ではないだろう。 「想像できるか? 全校生徒が門脇かも、なんだぞ」  あははと笑顔交じりで知己が冗談を言うと、将之は 「あ、それ、もうヤりました。おなかいっぱいです」  と謎の返答をするのだった。 「学力不振で生徒指導も大変な学校なんでしょ?」 「そうらしい。詳しいな」  うなずきながら、将之に目を向けると 「あぁ。えーっと……。有名だし……。こ、これでも委員会勤めなので」  何故か言い訳めいている。 「俺も適度に教職年数重ねたし、学力と生徒指導、どっちもやってみせろっていう委員会からの試練なのかな?」 「その試練を与えたの、先輩に……じゃないんですが」 「なんか言ったか?」 「いえ」 「でもさ、生徒指導も学力向上も、俺、全然自信ないけど。そんな所にたった一人での赴任かと思ったら、今回は運よく卿子さんもクロードも一緒に異動ってなったのは心強いよ。あ、もしかしたらそういう難しい学校に対して、『仲間と一丸となって頑張れ』という教育委員会の配慮なのかな?」 「そんなこと、あるわけないでしょ」 「え? そうなの?」  問い返せば、将之はプイとそっぽを向く。 「僕は人事じゃないから、詳しくは分かりませんけど」 「???」  なぜか冷たい将之の態度の意味は分からないが、 「心機一転。俺、新天地で頑張るよ」  珍しく知己が前向きな気持ちで意気込みを語った。すると 「ドウゾ、頑張ッテクダサイネー」  将之の全く気持ちの籠っていない応援だけが返ってきた。  心なしか顔色が悪い気がする。  知己から視線をそらし何やら考え込んでいた将之が、とうとう最後は頭を抱え込んでしまった。 「体調悪いんなら、早く寝ろよ」  知己は将之を寝室に放り込みながら (疑って、悪いことしたかなぁ)  と少しだけ思った。
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