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「なあ。俺、どうなる? 停学? 退学?」
不安そうに、麗しの美少年が知己の顔を見つめた。
「うん?」
知己は今やっと二か月間のもやもやした気持ちから解放されたばかりで、敦の不安まで思い至らなかった。
(あ、そうか……)
「こんだけ授業妨害して……。俺、なんか言われる? 生徒指導? 親、呼び出す?」
自由奔放に育てられている三男坊でも、親の呼び出しは堪えるのだろうか。
知己はしばらく考え、
「いや」
その末に出した結論。
「?」
「だって、お前らがしたのは授業中に誤って筆箱や教科書を落としたり、電源切り忘れて携帯鳴らしたりしただけだろ」
「え?」
「そんなんで、親、呼び出さねえよ」
知己が言うと、敦の瞳が戸惑いに揺れた。
「だって、理科担や英担も学校休むわ、4月になったらよその学校に行ったわだし。いいのかよ?」
「いいか悪いかって言ったら、絶対に良くはないけど。それについては……これからは、もうするなってことで」
「そんなんで許されるのか?」
「うーん。敦たちの話を聞いたら、お前らが聞きたくなるような授業をしなかった教師も悪い気がするから、なぁ」
それを聞いて、敦が目を丸くした。
「先生の方が……悪い?」
いつだって悪いことをしたのは自分達だと言われ続けてきた。
そんな風に言われたことがない。
呆然とする敦に
「ね。変わっているだろ? この先生」
章は微笑みかけた。
「意味が変わっているぞ、章」
すぐに知己は章の悪意に気付いた。
「生徒に分かる授業をするって、言ってみたらそれが俺たちの仕事だし」
気落ちする敦の頭を、無意識に撫でてしまった。
(しまった。つい、甥っ子みたいな扱いを……!)
16歳の少年を子ども扱いして、また嫌がられると知己は身構えたが、敦は知己の手を撥ね退けなかった。
「……う、ん……」
むしろ撫でられてどうしたものやら反応に困り、言葉少なく頷くだけ。
(あ。拗れなくて良かった……)
ほっと胸をなでおろす。
所在なさげな敦に
「それにな、俺の知っている偉い人が『隣人を許せ』って言ってたからな」
と知己は更にフォローを入れてみた。
「誰?」
「知らない。章は?」
「僕が知るわけないでしょ?」
三人が、頭の上にそれぞれ「?」マークを浮かべている。
それどころか
「大体、俺たち、先生んちの隣に住んでないし」
とまで言い出した。
それを聞いて、知己は
「そうか……。お前ら、やっぱり少しは勉強した方がいいかもな」
そっと目を伏せるのだった。
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