夏休みはそう簡単に訪れない 1

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(なんだろうな。あまりにも期待に満ちた目で待たれると、どうしてこうも呼びたくなくなるものか)  知己は少しだけ戸惑ったが、流れ上、訊いてしまった。 「章……。なぜ、おまえが……」  章は中間で59点取っていた。期末で後1点でも取れば、足して二で割り、平均30点。赤点回避できたのに、なぜに 「0点なんだ?」  少しでも書いていたら部分点もつけられた。しかし、名前を書いているだけの答案。白紙では、どうしようもない。 「先生の補講を受けたくって」 「は?」  あまりにも直球で、しかも耳が拒否する回答だった。 「中間、59点。なかなか微妙な点数だったでしょ? 僕としてはもう少し控えておくつもりだったんだけど、思ったより点数取れちゃって。ギリギリだったのには焦ったけど……はあ。失敗しちゃった」  冒頭のため息がまた出た。 「僕ともあろうものが、俊ちゃんと敦ちゃんのステータスの低さを忘れてたよ」  章がペロっと舌を出していたずらっ子スマイルで、友を友と思っていないような発言をしたが、敦と俊也は諫めない。ただ、めんどくさそうに顔を顰めるだけだった。 「しまった。つい本音が」  どの辺が本音だったのだろう。 (場合によっては友情にヒビが入りそうだ)  いい加減に止めないと章の今後の友人関係が心配になる。  そこで、知己は 「少しは隠せ」  と忠告した。 「はぁい。分かりました。えーっと」  章は快諾し、少し考えて白紙答案の理由を言った。 「先生の教え方が悪くって、まったく問題が解けませんでした」 「……」  これまでにない悲痛な表情を知己は浮かべた。 「章。おまっ、先生、泣かすなよ」  俊也が庇うと 「泣いてない!」  知己は即座に否定した。
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