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「本当は先生と二人っきりで一週間、強制補講するつもりだったのに、俊ちゃんと敦ちゃんまで、何かのセットメニューのように付いてきちゃった」
きっと章の頭の中では、俊也はポテトで敦はドリンク、そして図々しくもメインは自分なのだろう。
「けっ。お前の思い通りにはさせねーよ」
度重なる章の罵倒に、やっと俊也が重い腰を上げて迎撃に出たが
「実力で強制補講になったくせに」
章は一刀両断にした。
「うるせー」
俊也が言っている逆隣りで敦も
「俺は受けたくて受けている訳じゃない」
と反論した。
だが、なぜか視線は知己の方を向いている。分厚いメガネ越しにクリクリとした大きな目が忌々しいものを見ているかのように歪んでいるのを感じた。
「大体、他の教科はなんとかクリアしているのに、なんで生物化学だけ赤点なの? それってどういうこと? 俊ちゃんも狙ってたとしか思えないんだけど」
俊ちゃんもと言った時点で、知己は章を理科室から追い出したくなる衝動に駆られた。
かろうじて理性で押さえている傍ら、俊也vs章の戦いが続いていた。
「あのな、俺はお前と違って真剣に赤点は回避したいの! 分かるか?」
「分かんない。真面目にテスト受けてて、あんな点数、普通取らないよ。ねえ、敦ちゃん」
「問題は簡単だったな、章」
不意に振られても、敦は動じずに答えた。
「お前ら、こんな時だけ結託するな。
いっとくけど今日こんなことになっているのは、期末のあの日に俺のダウジングが冴えなかっただけだ」
「ダウジング……?」
知己が首を傾げた。
「あ、先生に見せてやるよ。これ、俺の宝物」
俊也が筆箱から自慢げに取り出したのは、昔懐かし六角形の鉛筆だった。
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