243人が本棚に入れています
本棚に追加
「小学校の時から使っている鉛筆で、名付けて『ミラクルペンソー』。俺の第六感を引き出すアイテムなんだ」
鉛筆の後ろの部分は、ナイフで表面を削り、その一面ごとに「壱、弐、参、死、伍、陸」と書いている。
「中二病……?」
覗き込んだ敦が言うと
「僕らは高2だから『高二病』だよ、敦ちゃん!」
章が冷静に訂正した。
「うっせーな、お前ら! 見んな! 俺は先生に見せてんの!」
俊也が懸命に応戦するも、知己は答えに窮した。
「もしかして……これで?」
「そう。記号問題はこの神託宿すミラクルペンソーで大体OK!」
親指立てて嬉しそうに言われても、知己には返す言葉は見つからない。
「大体という時点で、ダメじゃん。めちゃ曖昧」
「本当にお前はさっきからうるせーな!」
先ほどから言葉という名の武器で一刀両断どころか、めった刺しにする章を横目に、俊也は鉛筆を大切そうにしまった。
「だけどあの日、神託は降りてこなかった。ミラクルペンソーは記号問題をことごとく外した。その結果がこれだ」
悲しそうな俊也の前には、知己がもっと悲しい顔で佇んでいる。
「俊也。……頼むから問題文を読んでくれ」
気力を振り絞って、やっとそう言ったのに
「先生、あのな。読んで意味が分かるくらいなら、必殺・ミラクルペンソーを出さないっつーの」
と、俊也。続いて
「やっぱり先生の教え方が悪いんじゃん」
容赦なく章。
「……」
知己は三十路も近いというのに、高校生の発言に本気で泣かされそうになった。
こうして、ちまたは夏休みだが知己と高校生たちの強制補講の一週間が始まった。
最初のコメントを投稿しよう!