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夏休みはそう簡単に訪れない 2
「じゃあ、俺はこれで」
梅木敦が、カバンに教科書を詰める。
「敦ちゃん、次はどこ?」
「後は、全部教室棟だけの移動」
敦だけは、章・俊也と事情が違った。
欠席が多い分の欠課を補うために補講に出ている。そのため、受けなければならない教科は多い。テストの点数は十分足りているので、知己の所で1時間補講を受けた後、教室棟に戻り、他の教科の補講を受けていた。
理科学以外赤点のない章と俊也は理科室に残り、こちらは赤点を補うための補講をそのまま続行していた。
午前中だけのはずが、「暇だから」と二人は午後まで理科室に居座るかのように補講を受ける。
おそらく教室棟で補講を受けている敦が終わるのを待っているのだろうと思われた。
「じゃあ、な」
「お昼に学食で」
章と俊也が送り出していると
「うん」
敦が少し寂しそうな顔をした直後に
「……っていうか、誰かさんがわがまま言って理科室で補講するから、いちいち特別教室棟まで出向かなきゃなんないんだけど」
めんどくさそうに知己に文句を言い始めた。
「なんで、教室で補講しないの?」
とはいえ教室でしないといけない決まりはない。各々の教師が指定した教室で行う。大抵は、担任受け持ちの教室でやっていたが。
「理科は理科室でするもんだ」
「何、その理由。はー、めんどくさ。そのおかげで、いちいちここまで足を運ばなきゃならないんだけど。このくそ暑いのに毎日学校に来るのもめんどくさいのに、こんな校舎の最奥の理科室くんだりまで来て、また教室棟に帰ってを繰り返して、本当に大変なんだよね。スマホの万歩計は毎日1万歩以上になってるし。おかげで、俺、めっちゃ健康になってんだけど」
敦のやや高めのボーイソプラノはよく通る。それで長々語られる苦情は、キンキンと耳に響いた。
「だったら、敦。お前もう来なくていいぞ」
「……え?」
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