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知己が出席簿を見ながら言った。
「はあ?! それ、どういう意味?!」
目の色を変えて敦が詰め寄る。
「何、それ。そんなんで、俺が泣きつくとでも思ってんの?!
俺が欠課で単位認定されなくてもあんたは痛くもかゆくもないんだろうけど、なんだよ! 自分の担当の子が困るの見越してそんなこと言うなんて、信じられない! それでも教師かよ! 見損なった! 職務放棄!」
いきなり「来なくていい」と言われ、敦が怒涛の反撃を開始した。
「敦が何を言っているのか、よく分からないが。こいつらと違って、お前はもう来なくてもいいって言ってんだ」
「ますます分からない! 俺だけ理科室来るなって、何それ!? 新しいイジメかよ!? 章達ばっかり来てもよくって、俺だけダメとか、ふざけんな! 教師のクセにエコ贔屓かよ!」
この間まで、知己を苛めの対象にしていた敦に言われ、知己は苦笑いを浮かべる。
「いや。エコ贔屓とかじゃなく……。お前の場合、単位認定されるから」
敦の、なんだかまた泣き出しそうな、それでいて強気という謎の反撃に、知己はキョトンとしつつ言った。
「は?」
「お前の欠課、昨日と今日の二日間出て一学期分はギリクリアだ。欠席は全体授業数の3分の1までは、してもOKだろ? だから、お前はこいつらと事情が違って一週間まるまる出なくても大丈夫。今、換算したんだけど、もう足りてる」
「あ。そ……」
敦の声のトーンは駄々下がり。
「そ、そういう……意味……?」
「うん? 他にどんな意味があるんだ?」
分からずに訊く知己に、
「……」
敦は顔を赤らめて、とうとう黙り込んでしまった。
「なんだ。二学期が心配か? 余裕持っておきたいんだったら、もうちょっと欠課分の出ておくか? 補講、組んでもいいけど?」
至極真面目に受け答える知己の向こう、ニヤニヤと笑う章と俊也が目に入る。
章に至っては
「先生、もう敦ちゃんを追い詰めないでいてあげてぇ」
とまで言い出した。
章の言う意味が分からないでいると、敦は
「ちっ! アンタと話してたら、次の授業に遅刻する!」
と、理科室を飛び出して行ってしまった。
「なんだ、あいつ?」
返事がなかったので、明日敦が登校するつもりなのかどうか分からずに知己は戸惑っていると
「敦ちゃん、複雑なお年頃だから、ね」
よく分からないフォローが章から入った。
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