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夏休みはそう簡単には訪れない 3
「平野先生。ちょっと、ご相談が」
事務職員・坪根卿子が、職員室に戻った知己を呼び留めた。
「先生のクラスの吹山章君と須々木俊也君の二名ですが、補講の手続きに来ていないんです」
「手続き……?」
「はい。補講は全員受ける通常授業ではないので、受ける場合は事務室での手続きが必要なんです。それで、先生のクラスの二人は、まだ手続きに来ていません」
そういえば敦は欠課の為に強制補講の常連。手続きは分かっていたのだろうが、章と俊也は初めての強制補講。手続きを知らなかったようだ。
「急ぎますか?」
「補講期間中であれば問題ないです」
「じゃあ、明日にでも事務室に行かせます」
「あ。……はい」
知己に手続き不備の相談に来たものの、浮かぬ顔で卿子は頷いた。
以前のいざこざに巻き込まれてからというもの、卿子は特別教室棟を避けていた。事務室と職員室の往復のみ。当然、通常教室棟にも近づかないので、吹山章・須々木俊也との接点は0。
あの時にずいぶんと怖い思いもしている。
(あいつらと話すの、嫌だろうな)
実際に彼らと関わって仕事に来られなくなった教師が、昨年も二名ほどいる。
大人だってあの仕打ちは辛いし、怖い。
たった一人ぼっちで、生徒に凄まれ、女性ならなおさら恐怖を味わっただろう。
トラウマになっているのかもしれない。
それで知己は少し考えた。
翌日は、補講も始まって三日目。補講週間のちょうど中日である。
(あ。敦。来ている……)
昨日文句を山ほど言っていたが、今日も敦は来ていた。
(もう来なくても単位は大丈夫なんだけど……。まあ、いいか)
章もなぜか「追い詰めないでいてあげて」とか言っていたし、その辺は触らないでおこうと思った。
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