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「突然だね、先生」
俊也と和気藹々と追いかけっこを楽しんでいた章の無邪気な笑顔に、翳りを帯びる。
「当然」
さも、アタリマエ。悪いとは一切思っていない陰湿な章の笑顔だった。
「謝ってない」
俊也も同様に答えた。
「だろうな」
あの明るい卿子から笑顔が消えるなど、この二人に会いたくないオーラが霊感ない知己にも見えた。
「別に謝る必要なんてないし」
「謝りたくねーし」
踏み倒す気満々の発言を章が言うと俊也も倣った。
「いや、あるだろ。悪いことしたら、謝る。ごく普通のことだ」
呆れて知己が言う。
「悪いことなんかしてねーもん」
二人にその意識は薄い。だから、今の今まで忘れていたのだ。4月のいざこざを。
「世の中ではあれを『悪いこと』=『脅し』と言うんだ。ちゃんと謝ってこい。そして、補講の手続きをしてこい」
「は?」
「でないと理科室出禁だ」
理科室出禁?!
「はあ?!」
降って湧いたペナルティに二人が叫んだ。
聞いていた敦も、目を見開いた。
「先生……強制補講の意味、分かっている?」
「分かっている」
ただの補習なら、学力向上や進学目的の希望者のみ。
たいして強制補講は学校側の赤点取った生徒への救済措置。教師には行う義務が発生し、生徒には受ける権利が生じている。
「だったら、僕たちはここに来る権利がある。例え先生にだって、それは奪えない。僕達の強制補講、ちゃんとしてよね?」
久々に見た章の悪態。言葉巧みに追い込むのは、当然のこと。それ以上に見ているものを苛立たせるニヤニヤとした笑顔で、巧妙に正しさを主張して、腕力でなく心理的に相手を抑え込むのだ。最近こそ控えていたが、以前はそれで教師とも生徒とも数々渡り合ってきている。
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