夏休みはそう簡単には訪れない 3

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「あ、じゃあ、さ。ちょっと聞いときたいんだけど、謝ったら二学期になっても放課後にここ来ていい?」  今度は章も訊く。 「な? は? あ?」  敦は会話について行けず、意味不明な言葉を発し続けていた。 「もちろんいいぞ。心から謝ってこい」  敦のことを置いてけぼりにし、どうやら話はまとまったようである。  居たたまれなさを感じ、敦は持っていたカバンをあらん限りの力で握りしめた。  やがて1時間目終わりを告げるチャイムが鳴った。  「あ、敦。時間だぞ。教室棟の補講に遅れないようにしろよ」  知己がにこやかに語りかけると 「あんたに言われなくても分かっている! 今、チャイム鳴ったし! 目は悪いけど、耳は遠くない!」  敦は怒鳴った。  キレ気味の敦は少し気になるが、それよりも今は、章と俊也の二人がちゃんと卿子に謝ると言ってくれたのが嬉しい。  上機嫌に 「じゃあ、敦、また明日な!」  と知己が手を振ると 「……ぐぬぬぬ……っ」  敦が謎の唸り声をあげた。 「い、……言われなくても、また明日も来てやらぁ!」  捨て台詞と共に後ろ手で理科室ドアを激しく閉め、敦はずかずかと教室棟に向かっていった。 「なんで、あいつ怒ってるの? 複雑な年ごろ過ぎるだろ?」  残された知己が章に言うと 「先生が意外に黒い作戦ねじ込んだからじゃない?」  と答えた。 「俺、そんなに黒かったか?」 「真っ黒だった」  と俊也。 「とても人には言えないくらいに真っ黒だったね」 「そうだな」 「敦っちゃん、狡い(そういう)の嫌いだもんね」 「そうか」 (昨日一生懸命考えた作戦は、そんなに狡かっただろうか?)  しかし、教師いじめのゲームよりは、はるかにいいと思うのだが。 (まあ、いいか。これで卿子さんの憂いがなくなるのなら)  と知己は思ったが、それは翌日には後悔に変わった。  クロードが 「知己、人に言えない所が真っ黒だという噂を聞いたんですが、本当ですか? ちょっと私に見せてください」  と言われ、敦が腹いせに妙な噂を流したのが判明したのだ。  とにもかくにも、その日、事務室ばかりか管理棟すべてにまで聞こえるほどの「さーせんっ!」の大音声が響き渡ったのは言うまでもない。 【おまけの4コマ】描きました。 https://estar.jp/novels/25306033/viewer?page=341
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