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夏休みが来た 4
翌日。
ブツブツと文句を言い続ける将之が仕事に出かけるのを見送ると、知己は博物館の開館時間に合わせて礼を車に乗せて出発した。
「平野さん、博物館はお好き?」
生物専攻の自分に対する質問じゃないな……と苦笑いを浮かべ、知己は
「好きだよ」
と答えた。
「あら。なんだか嬉しい」
礼は、照れたように笑う。
話の流れから博物館のことを好きだと言ったのは分かっているが、図らずも「好き」と言われて照れてしまったのだろう。
(卿子さんにも、こんな風に言えたなら……)
毎度、無駄に思ってしまう。
駐車場に車を停め、博物館エントランスまで礼と二人で歩く。
「今の特別展は何があっているのかな?」
礼が訊いたが
「急なことで調べていないよ」
と、知己。
「実は私もですー。行けるだけで楽しいんだもん」
和やかに話しながらエントランスに着いた時、知己はありえない人物に出会った。
「あら? 平野先生?」
さっきの自分の願望が幻を見せたのか、博物館入口でなぜか坪根卿子と会った。
「え? きょ……じゃなかった、坪根先生……!」
ドキン。
(ら、ラッキー! こんなところで卿子さんに会えるなんて)
胸が高鳴る。
「どうして、ここに?」
「お使いなんです」
「は?」
想定外の言葉に知己が聞き返した。
「校長から、
『明日くるお客さんのためにお茶菓子を買ってきてほしい』
って頼まれて。なんでもその方が『博物館名物の化石っぽいチョコクッキー』が好きって言っていたらしいんで、せっかくだから用意したいそうです。それでここまで買いに」
「それはまた……。わざわざお茶菓子をリクエストだなんてなんとも珍しい客ですね」
(あえて卿子さんを博物館に差し向けるか?)
そんな来客に心当たりがある。あるいはヤツの息のかかった者。
「そのお客さんは、もしかして教育委員会の方ですか?」
ため息まじりに知己が訊くと
「あら。ご存じですか?」
と卿子は驚いた。
(……将之!)
「教育……委員会……?」
知己の隣で話が終わるのを待っていた礼が反応示した。
【挿絵を上げてみました。】ねんどろ絵注意です。
https://estar.jp/novels/25306033/viewer?page=363
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