夏休みが来た 4

1/3

242人が本棚に入れています
本棚に追加
/778ページ

夏休みが来た 4

 翌日。  ブツブツと文句を言い続ける将之が仕事に出かけるのを見送ると、知己は博物館の開館時間に合わせて礼を車に乗せて出発した。 「平野さん、博物館はお好き?」  生物専攻の自分に対する質問じゃないな……と苦笑いを浮かべ、知己は 「好きだよ」  と答えた。 「あら。なんだか嬉しい」  礼は、照れたように笑う。  話の流れから博物館のことを好きだと言ったのは分かっているが、図らずも「好き」と言われて照れてしまったのだろう。 (卿子さんにも、こんな風に言えたなら……)  毎度、無駄に思ってしまう。  駐車場に車を停め、博物館エントランスまで礼と二人で歩く。 「今の特別展は何があっているのかな?」  礼が訊いたが 「急なことで調べていないよ」  と、知己。 「実は私もですー。行けるだけで楽しいんだもん」  和やかに話しながらエントランスに着いた時、知己はありえない人物に出会った。 「あら? 平野先生?」  さっきの自分の願望が幻を見せたのか、博物館入口でなぜか坪根卿子と会った。 「え? きょ……じゃなかった、坪根先生……!」  ドキン。 (ら、ラッキー! こんなところで卿子さんに会えるなんて)  胸が高鳴る。 「どうして、ここに?」 「お使いなんです」 「は?」  想定外の言葉に知己が聞き返した。 「校長から、 『明日くるお客さんのためにお茶菓子を買ってきてほしい』  って頼まれて。なんでもその方が『博物館名物の化石っぽいチョコクッキー』が好きって言っていたらしいんで、せっかくだから用意したいそうです。それでここまで買いに」 「それはまた……。わざわざお茶菓子をリクエストだなんてなんとも珍しい客ですね」 (あえて卿子さんを博物館に差し向けるか?)  そんな来客に心当たりがある。あるいはヤツの息のかかった者。 「そのお客さんは、もしかしての方ですか?」  ため息まじりに知己が訊くと 「あら。ご存じですか?」  と卿子は驚いた。 (……将之!) 「教育……委員会……?」  知己の隣で話が終わるのを待っていた礼が反応示した。 【挿絵を上げてみました。】ねんどろ絵注意です。 https://estar.jp/novels/25306033/viewer?page=363
/778ページ

最初のコメントを投稿しよう!

242人が本棚に入れています
本棚に追加