夏休みが来た 5

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「待てよ。俊也が居るってことは……」  ある疑惑が浮かぶ。 「当然、敦たちも一緒だ。  俺は恐竜でレポート書くつもりだけど、あいつらは、もいきーな(気持ち悪い)ので書くってさ。俺は付き合えないんで、今は別行動。昼に落ち合う予定」  それを聞き、知己はすかさず礼に向き直った。 「そうか。帰ろう。礼ちゃん」  帰宅を全力で勧め始めた。 「え? やだ! 来たばっかなのに」 「敦たちに絡まれる前に帰ろう」 「絡まれる?」  礼の想像の中では、アロハシャツの前を全開にし、アリエナイ鋭角の眉がちょっとだけの目の座った怪しい男が、ガニ股気味のサンダル履きで「焼きそばパン買ってこいよー」と言いながら博物館奥より歩いてくる立体映像で再生されていた。  礼の『絡まれる』行為は、どうやら9年前から更新されていない。 「主に先生が」  と丁寧に俊也が付け足した。 (平野さんが、絡まれる……)  その瞬間、立体映像の男たちが知己の胸倉掴んで「先生、焼きそばパン買って来いよー」の映像に切り替わった。3160f9b5-0033-4ecf-9d83-503973d4212a「私に実害ないならいいじゃない。焼きそばパンくらい買って来なさいよ」  1ミリも悪びれずに言う辺り、間違いなく将之の妹だと感じる。 「礼ちゃんの言っている意味が分からないけど、君にも被害が及ぶかもしれない連中だ。からかうレベルでいったら俊也の比じゃないからな」 「そんなにが悪い人なの?」  なにげに俊也はディスられた気がして「ん?」と首を捻った。 「そうだ」  迷わず知己は肯定する。 「お兄さんと、どっちが悪い?」 「それは難しい質問だな」  将之を的確に評価する女性の質問に、知己は真剣に返答に困る。 「とても教え子に対する言葉じゃねーな……。それ、敦の前で言うなよ。言ったら、また臍曲げるぞ」 「そ、そうだな。すまん。忠告感謝する」  さすがに言い過ぎたかと知己は反省した。  知己に感謝されて俊也は気をよくした。 「それに章も……」 「章も?」 「……章は、……喜びそうだなぁ」  俊也は思ったままを口にした。 「やっぱり帰ろう。悪すぎる」  礼の肩を掴んでをさせ、今、入ってきたばかりのエントランスに向かう。  あくまでも博物館のエントランス(入口)であって出口ではないのだが、頼めばなんとか出してくれるだろう。
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