243人が本棚に入れています
本棚に追加
夏休みが来た 7
一通り歴史エリアを見終え、
「ねえ。そろそろ、あの子達も居なくなったんじゃないかしら。剥製コーナーにリュウグウノツカイ見に行こ?」
と礼が言った。
知己も承諾し、剥製展示の特別室に戻った。
先ほどと同じように、こっそりと知己は入口で中を伺った。
「よし。章達は……居ないようだ」
あれから小一時間。
さすがに章達も別の所に行ったのだろう。
「あ」
知己の後ろで、礼が不意に声を上げた。
「何? 礼ちゃん」
振り向くとそこには、どこから現れたのか、礼の隣で章と敦が並んでいる。
しかも
(お前ら、絶対に前世は悪魔だっただろ?!)
みたいな笑顔で。
その後ろには、所在なさげに俊也も佇んでいた。
「先生ー。お久しぶり。元気ー?」
「いや、絶対に元気だろ。ここでこんな風にデートに来ているくらいなんだから」
「てか、何? この綺麗なお姉さん」
「俺の方が綺麗だと思うが……。
それより、マジか? 俺らがここで必死に社会の課題しているっつーのに、教師は平日に楽しくおデートかよ?」
「夏休みも仕事だーって言ってなかったっけ?」
「俺達に嘘ついたのかよ。マジ、信じらんない。最低。教師最低」
「みんなには黙っといてあげるから、さー。ちょっと、僕らに顔貸してよ。ちょっとだけでいいから、僕らと遊んでよー」
口々に好き勝手言う章と敦に、礼は
「顔は可愛いのに、言う事はたかりみたいなのね」
と思わず零した。
「みたいじゃないよ」
「2年前までは、ちゃんとしてた」
「ちゃんとしてた?」
「お姉さん、ちょっとジャンプしてみ?」
「ジャンプ?」
謎の話を立て続けにされて、さっぱり分からない礼はどうしたものか困っていた。
「礼ちゃん。こいつらの言う事、聞かなくていいからな」
見かねて知己が助け舟を出す。
「わ。『礼ちゃん』だって」
そのとたん、章の目が輝いた。
知己は少なからず(しまった)と思ったが、いずれはバレることだ。
「なんだよ」
腹を括って、負けじと言い返すと
「僕も、ちょっとだけでいいから『章ちゃん』って呼んでみてくれない?」
章のよく分からない提案だった。
「呼ばない」
「俺は死んでも『敦ちゃん』と呼ぶな」
「呼ばないってば」
不毛な会話が続き、礼は
(ある意味、ものすごく慕われているのねー)
と三人の様子を眺めていた。
【挿絵を上げてみました。】礼が好奇心旺盛でジャンプしちゃったようです。
https://estar.jp/novels/25306033/viewer?page=373
最初のコメントを投稿しよう!