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「何、そのハグ?!」
礼の美しい眉がきゅっと吊り上がり、眦がぴくついた。まるで忌々しい物を見たかの反応だ。
今度は知己が礼の地雷を踏み抜きかねない行動だったが、すかさず章が
「熱き教育の抱擁だね! 先生、分かるよ! 僕にもしてっ!」
両手を広げて、ウェルカム状態で叫んだので、なんとか礼の地雷は踏まずに済んだ。
知己は、モガモガと胸元で窮屈そうに暴れる敦をがっちりかかえたまま
「しないっ!」
と答えた。
「俺は……遠慮しておく」
「だから、しないってば!」
何故か悔しそうにする俊也にも即答していた。
「息ができない! 離せ、この変態教師!」
敦が知己を引き離した時には、もう知己の教育上のスキンシップなど関心の外。すっかり意気投合した章と礼が「生体不明の深海魚」だの「人魚のモデル」だの「自切して身を守る」だの、熱くリュウグウノツカイについて語りあっていた。
「章ー!」
敦が叫ぶように呼ぶが、章は
「いや、妹さんの話が面白くって……」
すっかり礼の話に夢中だ。
「君、見どころあるわ。アメリカ来ない? スミソニアン博物館に君の好きそうなもの、いっぱいあるわよ」
礼が誘った。
「嬉しいなぁ。機会あったらぜひ」
章が得意のセールスマンスマイルで応えると
「いい子ね、知己お兄さん!」
キラキラした目で、礼が知己に同意を求めた。
「アー。ソウ……?」
やはり知己には中途半端な返事しかできなかった。
(これまでのやり取りのどこにいい子要素があったかな?)
知己には到底分からなかったが、礼が喜んでいるのなら
(まあ、いいか)
と思った。
一方、俊也は
(これだけ騒いでて、俺達がつまみ出されない理由は、敦にあるんだろうな)
と、博物館設立の石碑に「寄贈・梅ノ木グループ」の文字があったのを思い出していた。
【挿絵を上げました。】ハグの日
https://estar.jp/novels/25306033/viewer?page=381
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