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「おっそーい! もう何してたの?」
かなり日が上がってきている。ジリジリとした夏の強烈な日差しを少しでも避けようと、礼は薄いレースで縁どったハンカチを頭に乗せていた。
「失敗した。日に焼けちゃう。将之お兄さん、車のキー貸して。日傘を取ってくる」
もう手遅れかなと言いながら、将之から鍵を受け取ると
「まったく男同士でイチャイチャして。ちゃんとリュウグウノツカイは探した?」
と礼が訊いた。
「は?」
驚いて知己が聞き返すと
「一人と二人に分かれた時には、これは『心臓と腎臓の関係』だわと焦ったわ。だけど、腎臓が二つとも探す気ないんじゃ機能不全に陥っている大変な状態じゃない」
なお、難解な言葉が返ってきた。
そこで将之が
「僕が訳してみます。
心臓は1つ、腎臓は2つ。一人になった礼ちゃんはさながら心臓のような役割。一人でリュウグウノツカイを探さねばならない。見落とせない、責任重大だと思った。一方、僕らは二人居るから、腎臓のようにどちらか片方でも機能して探したらよいと思われたけど、どっちも探す気がないようだからちゃんと探せていない大変な状態なのでは……と言う事かと」
と翻訳した。礼は、それに大きく頷いた後に
「二人で波打ち際で抱き合ってたでしょ? もいきーっ」
博物館で聞いた俊也の言葉を、残念なほど適切に引用した。
何の障害物もない砂浜。
そのため、かなり見通しが効いた。
(うっかり第二の地雷を踏んでいた!)
頭上の釣り人達には見られていなかったが、二人の背後の礼からは遠く離れていても見られていた。
「いや、あれは将之が急に引っ張って、それで俺が転びそうになっただけで……」
と知己の必死の弁明も礼は聞かずに、
「海に来た解放感? 仲良しの男友達ではしゃぐにしろ、あれは見ていて気持ちいいもんじゃなかったわ」
あからさまに黒光りする触角の長い古代からほとんど形態を変えずに生き残っている頭文字はGの虫を見るかのように二人を見た。
生き物大好き・礼にとっては、それさえも「れっきとした昆虫」とそれなりに評価しそうな気がするので、今の知己たちのポジションはG以下である。
【挿絵を上げてみました。】礼の目撃したシーン
https://estar.jp/novels/25306033/viewer?page=405
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