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★悪名高き 八旗高校 4
「大体、俊ちゃんが下手過ぎるんだよ。もっと上手に嘘つけよ」
あえて『嘘』と公言した章。
「ごめん。章……」
章にあまりにも素直に謝る俊也。
どうやら、背も高く狐顔の須々木俊也より、美少年顔の愛らしい吹山章の方が力関係では上のようだ。
「お姉さんの言ったことで大体合ってる。でも、そのお姉さんが、たまたまかもしれないけど頭突きしたんで、俊ちゃんがびっくりして殴った。これは本当だからね」
ベラベラと、知己が掴みたかった真実を口にする。
この開き直った態度が、逆に怪しい。
そこまで言うと、章はくるりと卿子に向き直った。
卿子がびくりと警戒する。
無理もない。あんなに脅されたとあっては。
「俊ちゃんがお馬鹿で本当にすみません。ご迷惑をおかけしました」
丁寧な言葉で謝罪までする。
「あの……?」
いぶしかげに卿子が困ったように首を傾げる。
「で? 何か先生に用事があって、特別教室棟まで来たんじゃないすか?」
「あ……、そうでした!」
卿子は、はっとして告げた。
「平野先生は帰る前でいいので、後で事務室寄ってください。印鑑をお願いしたい書類があります」
「はい……」
「……」
章の一変したしおらしい態度に、拍子抜けして卿子も知己も黙り込んだ。
黙り込んだ教師たちの向かいで、代わりに章が口を開く。
「じゃあ、みーんな用事は済んだということで。僕たち、帰っていい?」
「帰っていいのは、卿・・・坪根先生だけだ。まだ、お前たちの話の聞き取りが済んだだけだから、俺からの話が残っている」
「ちぇ」
「本当にご迷惑をおかけしました。きょ……坪根先生、どうぞ事務室に戻って仕事をしてください。俺はこいつらと話をしてから、事務室に行きますので」
事実を掌握するだけではなく、知己は教師という立場から、俊也達が二度とこんなことをしないよう指導しなくてはならなかった。
それを理解して、卿子は知己に一礼をすると理科室を去った。
「行っちゃったね」
卿子の小さくなっていく足音を聞きながら、章が呟くように言った。
「ああ、行ったな」
俊也が応える。
「ったく、よりにもよって、きょ……坪根先生に迷惑かけやがって。反省しろ、お前ら」
知己が話しかけたが、章が
「先生、一人になっちゃったね」
目を三日月のように細めて笑った。
「ああ、一人になっちゃったな」
応える俊也も嫌な笑いを浮かべていた。
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