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「知己もどこかに移動しますか?」
クロードに言われたが、知己は
「そうだな……。俺はできるなら、こんな格好でウロウロしたくないから、いいや」
体育館か、なんなら控室の講堂に戻りたいくらいの気持ちでいた。
「あ、センセーだ!」
体育館から今度は美羽達が出てきた。知己を見つけて、嬉しそうに門脇達4人と取り囲んだ。
「先生が一番きれいだったよ! マジ、綺麗。近くで見ても惚れ惚れしちゃう。どっからどう見ても美人よねぇ。背も高いし、黒のシンプルドレスが似合っているわ。私が男の人だったら、絶対に惚れちゃう」
マシンガントークで知己を褒めまくる美羽だったが、知己は
(かつての教え子にこれほど絶賛されても、ちっとも嬉しくねーな……)
またもや視線を宙に彷徨わせるだけだった。
「ねぇねぇ。今日の思い出に一緒に写真撮ろうー!」
無邪気に頼む美羽に
(御前崎、GJ!)
門脇が心の中で大きく両手を挙げていた。
「あ。困りますぅ。ミスコン参加者のSNS等へのアップはご遠慮くださーい」
章が知己のマネージャーにでもなったかのように、すかさず釘を刺しに来た。
「そんなことしないわ。大事に保存するだけ」
美羽が言うと、門脇も大奈も頷いていた。
「だったらいいでしょ?」
美羽も、もはや知己にではなく章に許可を求めている。
「うーん。……じゃあ、先生。後で僕とも写真撮ってもらえます?」
「なんで章と……?」
謎の取引を持ち掛けられた。
おそらく、ろくなことに使われまい。
かつての理科担が酷い目に遭わされているのを知っている。章の誘いに迂闊には乗れない。
「だってせっかくだし、僕も文化祭の思い出は欲しいから。その恰好でクラスのみんなと撮ってくださいよ。そうしてくれるんだったら、他の人と写真撮ってもいいですよ」
何故、そうなる。
(クラスの……みんな……。ということは、俺も……?)
俊也が一瞬喜んだように見えた。
(いやいや、見かけはラノさんだけど、中身は先生だし)
いまだに混乱からは抜け出せていないようだ。
「ね、ね。悪いことには使わないから」
知己の気持ちを見透かしてか、章が上目遣いに頼み込む。
「写真くらいいいでしょ? もちろん、私たちもネットにアップなんてしないわ」
近藤大奈も押してくる。
助けてくれそうな卿子は、ステージ終わった途端に「来賓の接待に戻ります」と早々に職員室に引き上げたし、クロードはニヤニヤ笑っているだけでちっとも助けてくれそうにない。
孤立無援の知己は、ただもう頷くしかできなかった。
【挿絵を上げてみました。】関連の4コマはこちら
https://estar.jp/novels/25306033/viewer?page=443
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