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「どうせ最初っから狙いは先生の方だったし」
章が視線を送ると、俊也も一緒に席を立った。
「?」
それまでは実験用机のつやつやとした天板の大きな机を挟んで座っていたが、章は回って知己のそばに寄った。
「大人って、単純だよね。ちょっと殊勝な態度とるフリしたら、ころっと騙されてくれて」
改めて、知己の隣に座りなおした。
「騙す?」
聞き捨てならない言葉に、知己は眉を潜めた。
「ねえ、先生。一人になるということは、目撃者居なくなるってことだと思わなかったの? こっちはあんたのめんどっちぃ説教聞く気なんか、サラサラないっつーの」
これまでおとなしかった章がやけに饒舌だ。
「言っとくけど、出るとこ出たって勝負にならないからね。教師、政治家、警官はメディアの大好物。世間様は僕らの味方だよ。後でとやかく言われても、僕たちは『知らない。先生が保身のために嘘ついている』と言えば、嘘でも僕らの言う方が通るんだ」
先ほど、卿子に似たようなことを俊也が言っていたが、どうやらそれは章の受け売りのようだ。
「じゃあ俊ちゃん、先生の腕を押さえてて」
「分かった」
「!?」
おもむろに背後に回った俊也が知己の腕を掴んだ。
「それじゃあ、僕、脱がす」
正面の章が、知己のベルトに手をかけた。
「な、何をしやがる!」
バタバタと足を動かして知己は抵抗するものの、章はやめる気配がない。
「これに懲りたら、先生、特別教室棟に来るの、やめなよ。また来たら俺達にこんなことされちゃうよ。それとも、むしろ……されたい?」
「ふざけるな!」
「ふざけてこんなことできないよー」
ニコニコと愛らしい笑顔を見せながら、章の手は止まらない。
「やっ……!」
ずるりとスラックスを下げられ、思わず顔を背けた知己の目元に赤味が差していた。
「あ……」
何故か両腕を押さえる俊也までか、スラックス下ろした章までもが赤くなった。
「……って、なんだよこいつ。前の理科担の時はキモイだけだったけど、なんかこいつ……下着メーカーのモデルみたいじゃん」
知己の黒いボクサーパンツは、下着のいやらしさや邪なイメージよりも、むしろ清楚さを感じさせた。
思わず俊也が「下着のモデル」と形容したのもうなずける。
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