文化祭の余波 4

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「わー! 俊ちゃん、しっかりぃ!」  ふらりと後ろに倒れそうになる俊也を、机の陰からダッシュで出てきた章が支えた。驚異の瞬発力で、間一髪、真後ろに倒れる俊也が頭を打ち付ける前に、体をキャッチ。その後、ペチペチと頬を叩いて刺激を与え、俊也の意識を繋ぎ止めている。  敦も章に続いて駆け寄りながら 「悪徳教師! ハニトラもいい加減にしろよ! 俊也が可哀そうだろ!?」 と、知己を指さして罵った。 (ハニトラ……?)  ややして「ハニートラップ」の略だと知己が気付き 「誤解だ! ちょっとした言い間違いだ!」  と慌てて、知己も駆け寄った。  一瞬、元々白目がちの三白眼の俊也が完全に白目を剥いた気がしたが、章に支えられて気を持ち直し、 「……俺、先生になら……割られても、いい……かも」  と満面の笑顔で言う。  まるで42.195km走り切ったマラソンランナーのごとく、頬染めつつも満足げに言うと、そのままガクンと力尽き、糸のきれた操り人形のように章の腕の中に完全に倒れ込んだ。 「わー! 俊ちゃぁん! 死んじゃイヤァ!」  章が叫んだが、俊也はそのままピクリとも動かなかった。 「慌てるな、章。こいつがそんなんで死ぬか。寝てるだけ」  敦が、冷静に俊也の顔を見つめる。  どうやら告白した後に緊張の糸がプッツリと切れ、これまでの睡眠不足が一気に押し寄せたようだ。しかも、俊也の意識をたたっ斬るには十分な知己の衝撃の告白返しに遭い、まるで麻酔銃でも打たれたみたいに眠っている。くーくーと心地よい寝息を立ててながら幸せそうな顔で。 「えーっと……改めて聞くけど。俊ちゃんを割るの? 先生?」  珍しく戸惑いを滲ませた章が訊き、敦は冷ややかな視線で見つめる。 「割らない! 俊也、起きろ! そういう意味じゃない!」  慌てて否定した知己の声も、もはや気持ちよさそうに爆睡する俊也には届いていなかった。 【挿絵を上げてみました。】こちらに落書き、置いています。 https://estar.jp/novels/25306033/viewer?page=464
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