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「あの、伝説ケンカ番長・門脇蓮様だー!」
(ネーミング、かっこ悪ぅ!)
と知己が思っていると
「なんだ、そのださい名前はぁ!?」
門脇も同意見のようで、章を怒鳴りつけていた。
「だって、みんなが呼んでいたんです!」
おそらく、門脇に対して到底太刀打ちできない畏怖と完膚なきまで打ちすえられた結果できあがった腹いせの名付けなのだろう。
「僕、めっちゃ蓮様を尊敬してたんですよー!」
章が純粋に尊敬するものを見つけた瞳で、両手を広げ、懲りずに門脇に抱きつこうとした。
が、
「きしょっ!」
またもや門脇にノーモーションで殴られる羽目に遭うのだった。
「知り合いか?」
「はい」
うなずく章の傍ら
「いや、知らん」
と門脇が冷たく答えていた。
「忘れもしません。二年前です」
「二年前……」
門脇は記憶の糸をたどる。たどってみるがどうにもたどり着けない。
「僕は塾帰りの夜……カツアゲの時に蓮様に会いました」
喝上げ……恐喝して金銭などを巻き上げる行為だ。
性格はともかく、愛らしく儚げな少年顔の章は、二年前は中学3年生。今よりも体も小さく、かっこうの獲物だったのだろう。
「あの有無を言わさず相手を打ちのめす非情っぷり。5人もいた仲間をあっという間に……まさに瞬殺でした。最高でした。あの時から、僕は蓮様に……」
うっとりとした表情で門脇への愛を語る。
その顔を見ながら知己は
(あー、あるあるだな)
と思った。
不良から救ってもらって、リスペクトするパターン。
ついでに、尊敬する門脇に近付きたい一心と不良に舐められまいと高校デビューするパターン。
(吹山章が高校デビューしちゃったのはちょっと置いといて、救ったという点では結果的にいいことしたんだろうか? 門脇は……)
成り行きとは言え、不良から中学生を救ったのだ。
門脇が卒業の時に、いいことをしたら褒める約束だったな……と知己は思い出していた。
褒めようかと思っていた矢先
「蓮様との出会い。鮮烈でしたから。蓮様が覚えていなくっても、僕はよく覚えています。通りすがりに、まったく無関係なのに、別にカツアゲされているヤツを助けるつもりもなく。ただひたすら問答無用で殴りかかって、助けた筈のカツアゲされたヤツも殴られて。まさに無差別暴力。その理不尽さに震えました」
(あ。吹山、カツアゲしてた方だったのか……)
褒める気力と理由を同時に失い、知己は目を伏せた。
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