ホワイトデーのお返し

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 それを聞き、門脇は 「おい、釣り目。俺のと取り換えろ」  と凄んだが 「たとえ蓮様でも、これだけは嫌だ!」  俊也が断り、知己の方に駆けだした。  知己には絶対に暴力を振るわないリアルジャイアン門脇対策だ。  門脇は諦めずに俊也を追いかけ、二人は知己の周りをグルグルと走り回り始めた。 (幼稚園児か?)  菓子を巡っての情けない戦いに、これが俊也(17歳)門脇(19歳)のすることか……と知己は呆れた。 (しかも適当に見つけた菓子に意味なんてねえだろ)  と思うが、この些末な戦いは敦が言うまで続いた。 「あ。キャラメルは『安心できる人』なんだって」  ぴたり。  門脇の動きが止まる。  それにつられて俊也の動きも止まった。 「……先生。俺の事をそんな風に思ってたのか」 「いや、鞄の中にあった菓子を配っただけだ」  感動に打ち震える門脇に、若干引き気味に答える。むろん、門脇は聞いていない。 「嬉しいぜ、先生!」 「うぎゃあぁぁぁ!」  知己は電気鰻に触れられたかのように叫んだ。実際に知己に触れたのは門脇だったが。 「愛しているぜ、先生ー!」 「「う、ぎゃぁぁぁぁ!」」  今度は章と俊也も叫んだ。  感激した門脇が知己を抱きしめた。  突然のことで動けないでいる知己の頭を押さえつけたかと思ったら、耳に小さくキスを落とした。  あまりの行動の素早さに、知己は防ぎきれなかった。  その後、知己から迎撃がくると読んでいた門脇はすぐに距離を取った。 「ありがとな。先生!」  怒りと羞恥で真っ赤になった知己の門脇を殴ろうとした手は、虚しく空を切るだけだった。 「すっげ。一瞬で、ハグして頭撫でて耳にちゅーして行った……」  章と俊也が、感嘆や尊敬や嫉妬ともとれる溜息をもらす。  二人のやりたいことオンパレードを門脇は電光石火で成し遂げた。 「さすが蓮様……」 「じゃあ、また遊びに来るから、それまでこいつらから貞操をしっかり守っててくれよー!」  追い打ちのセクハラ発言を残して、門脇は満足げにキャラメルを握りしめて理科室を出た。 「……何、言ってやがる」  知己はもはや門脇に恩は感じてなかった。章達の前でそれ以上の屈辱的な行為を強いられて、知己は 「もう、来るなー!」  と叫ぶだけだった。            ―ホワイトデーのお返し・了― 【挿絵を上げてみました。】落書き、描きました(*´▽`*) https://estar.jp/novels/25306033/viewer?page=493
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