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「そして、考えてもみろ。俺と門脇君であの広い施設を寝ても覚めても二人っきりで過ごすんだぞ」
「うっわ」
想像して、知己は思わず声を漏らした。
そんなに仲良くもない二人が、黙々と実験をこなす姿はなかなかにシュールな地獄絵図だ。
「だろう? そういう意味でも菊池君ウェルカムだ」
知己は、
(通販の段ボールの中に詰められた空気パンパンのクッション材のような存在なんだな、菊池は)
とひそかに思った。
「じゃあ、御前崎達も来るのか?」
「やめてくれ」
家永は即答だった。
「あの目つきの悪いミス慶秀大が来たら、静かな研究所が大変な騒ぎになる」
(目つきが悪い……?)
御前崎美羽は家永を見つけると、いついかなる状況でも必ずメンチ切っていた(※)。
それを知らない知己は
(御前崎。慶秀大で勉強し過ぎて視力が落ちたのだろうか?)
と思った。
「……海も近いしな」
Fカップのミス慶秀大・御前崎美羽である。
かつて近藤大奈が「美羽に水着」は「鬼に金棒」と同等の意味があると、言っていた。
「オスが魅力的なメスに惹かれるのは生物の性。だが、あの女が来れば静かな研究所に関係ない男子学生がどこからともなく集まるだろう。こればかりはどう考えても実験にはマイナスだ。集中できない。最悪な事態にしかならない」
と語る家永の唇がわなわなと震えていた。
きっと既に何らかの害を被っているのだろう。
「とにかくだな、うちに入りびたっている彼らを誘ったところ、条件次第では来てくれるというんだ」
(あ、またもや嫌な予感が……)
「条件は、お前の参加だ」
今度こそ誘われた。
「……やっぱり誘うんじゃないか」
「誘わないとは一言も言ってない。お前なら戦力にもなるし、好都合」
稀に見る人手不足に、かつての理学部卒業生・知己も実は当てにしていた。
家永の目は真剣だ。
(※)メンチ切る・・・正しくは「睨み付ける」らしいです。ケンカ売るときの常套手段。美羽は家永をライバル視しているので、毎度半目になって家永准教授の授業受けています。90分の受講後は瞼が疲労でピクピクしますが、決してやめようとしません。今はヤンキー用語の死語だそうです。
【挿絵を上げてみました。】
https://estar.jp/novels/25306033/viewer?page=511
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