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慶秀大学海浜研究所 4
早速、実験が始まった。
実験は最初だけが大変で、後は経過観察がメインのものばかりだった。
それで同時進行で3つもしているが、時間が空くと合間にちょこちょこと小さなものも家永が「せっかく実験機器充実しているし」と始めていた。
これが「根を詰める」の意味である。5分空くと、まとめられる実験結果をまとめたり、試したい検証実験を始めだす。昔取った杵柄で、大体のことが分かる知己もそれをサポートしていた。
「そろそろお昼ですね。俺、作ってきまーす」
最初に実験機器を一緒に揃えたくらいで、後は何も手伝えない菊池が食事当番表を見て言った。
すると門脇が
「じゃあ、俺も今は手が空いているし、手伝ってくる」
と菊池の後について実験室を出て行った。
「……意外だな」
門脇の背中を見送りながら知己が言うと
「そうか?」
家永が知己の呟きを拾いつつ、例の3時間ごとの面倒な実験のシャーレを、端に書いたメモに合わせ確認しながら慎重に置いていた。
「門脇があんな気遣いできる子だったとは……」
「鈍いな、平野。門脇君は、ああいう奴だぞ」
「そうか? 俺は、ゴリゴリのゴリ押し門脇しか知らない……」
大学生になり、あの門脇がずいぶん丸くなったと知己は思った。高校在学中は、門脇を信用しては裏切られ……を繰り返した思い出しかない。
「門脇君、お前のクラスの学級委員してたんだって?」
「そんなことまで門脇は話したのか」
自分のことをあまり話さない門脇にしては珍しいことだ。
月一で会う家永との話では気付かなかったが、今回のお泊り実験で、門脇に対する家永の見解はずいぶんと深いし、評価は高い。
大学の教官というのもあってか、門脇の教師嫌いもずいぶん和らいだように思える。
(思ったよりも、いい傾向だな)
と知己は思った。
ちゃぼさんが絵を描いてくれました💕
【挿絵を上げてみました。】もっと見たい方はこちらにどうぞ。
https://estar.jp/novels/25306033/viewer?page=532
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