如月十日のこと 2

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 必死過ぎてニコリと愛想笑いもできずに、舞台袖に戻ってきた途端に知己は 「俊也め、許さん」  と開口一番罵った。 「WHY(なぜ)? 盛り上げてくれたじゃないですか、めちゃくちゃ昭和のアイドル親衛隊みたいに」 「ヤングマンって言った! 俺、三十路なのに。嫌味! ムカつく!」 「ノリで言っただけでしょ。須々木君は純粋なラノラーですから。それに須々木君が教えてくれたんですよ。最初にBGMに使う曲は『A Question of Honour(クエスチョンオブオナー)』だって」 「そ……なのか?」  それを聞いて、やや溜飲が下がる思いだが 「……でも対決に『男の戦い』の曲持ってくる、あいつのセンスが分からん」  いまいち腑に落ちない。 「女装って言っている段階で、間違いなくの戦いですね」 「皮肉ってないのか?」 「吹山君じゃあるまいし。須々木君にその辺の高度な含みはないかと」  クロードも、俊也の学力は十分把握している。 「……(じゃあ、許そう)」  クロードと知己が言い争う舞台袖だが、そこで 「ああ、なんて可愛いナースさん……」  と、うっとりとした声で卿子が呟いた。  ピンクのナース風でもありゴスロリ風でもあるワンピースの敦が軽やかにステップ踏みながらランウェイを歩く。 「あ、うっかり見とれちゃってた!」  我に返って、慌てている。 「いけない! キュートなナースさんの梅木君が、もうランウェイの最先端にまで行っちゃいましたよ!  って、あぁっ何?! あの、あざと可愛いきゅんなポーズは……!」  敦が胸元で恥じらうように指を絡めたかと思ったら、そこから両指を曲げて小さくハートを作った。  その瞬間 「激かわ!(※)」 「ぐうかわ!(※)」 「ゆめかわ!(※)」  と、とにかく「かわ!」「かわ!」と語尾が統一された雄叫びが、体育館のあちこちで湧いた。  卿子の実況中継的発言に、クロードと知己が思わずランウェイの敦を見た。 「さすがは梅木君……」 「うわ、敦……。まじで、あざといな」 「やだ、出番ですよ! 梅木君に見とれてないで、平野先生、早く次の衣装に着替えて!」  振り向きざまに卿子が、中腰の姿勢だった知己のファスナーを勢いよく引き下げた。 「うわぁぁぁ!」  途端に知己の悲鳴が上がる。 (※)全部ほぼ類義語ですが、微妙に意味が違います。 激かわ:激しく可愛い。 ぐうかわ:ぐうの音も出ないほどに可愛い。 ゆめかわ:夢のように可愛い。 もちろん私は使い分けられずに「推しかわー!」しか言えません💦 43218efc-f60b-4ee3-a996-b6724deb489d【挿絵を上げてみました。】アツッシーがこの衣装について、語っております💦もれなく高飛車ですよ💦 https://estar.jp/novels/25306033/viewer?page=618
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