衝動のらくだ

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「おい、お前。俺を連れて旅に出ろ。」  中東のある国、砂漠地帯に高く聳える山の麓の街で富豪イルハム家にらくだ番として仕えるラムジはこの声を無視してこの日もらくだの世話を続けた。  ラムジにその声が聞こえるようになってから一週間が経っていた。はじめは誰かが物陰から話しかけているのだと思った。しかし、あたりを見回してもらくだ舎の中に人影は見当たらなかった。しかし、その声はそれから毎日、らくだの世話をするラムジの耳に確かに届き続けた。  らくだが人の言葉を話すわけがない。そう思いつつ、それでも聞こえるその声の中でらくだの世話を続けるラムジは徐々に正気を保つのが難しくなっていることを自分でも感じ始めていた。 「お前、ラムジって名前らしいな。聞こえているんだろ。無視するなよ。」 また声が聞こえた。いつもその声はらくだ舎の一番奥に繋がれている一番若いオスのらくだから聞こえてくる。この声もラムジは無視した。
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