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「黒木さん、今日も少し顔色が良くないように見えますが、大丈夫ですか?」
彼女は俺の顔を見てそう判断したようだ。
ソファに座る俺の目の前にいる彼女。
「大丈夫、平気だよ」
「そうですか、わかりました。では、早速使っていきましょう。でも、体調が悪くなればすぐに言ってくださいね」
鞄から取り出したシャイングラスを俺の頭と目元に装置する。電源を入れると、俺の視界はクリアになった。
心配そうに見つめる彼女の表情。
この視界はあの研究所と繋がっている。
俺の声も届いているわけだ。
「気になっていたことがある」
「気になっていたこと?」
彼女が怪訝な表情で尋ねる。
『今すぐ逃げろ!』
「あのとき、確かにおかしいとは思ったんだ。俺を助けた人が偶然視覚の研究者だったなんて」
「黒木、さん?」
「すべて計画通りだったんだな。俺を選んだ理由はなんだ?俺なら簡単に騙せると思ってたのか?」
俺はゆっくりと立ち上がり、ソファから離れる。
「どうしちゃったんですか?なにか、勘違いしているみたいだけど」
「勘違いなんかじゃねーんだよ!俺の頭の中にチップを埋め込んだんだろ?それで俺を操ろうとしてるんだろ?」
「ちょっと待ってください!なにを言ってるんですか?そんなわけないじゃないですか」
「あんたらは気付いてないのかもしれないが、俺にだけわかるように誰かが警告してるんだよ!すぐに逃げろって!」
『殺せ!今すぐその女を殺せ!』
「ああ、黒木さん……。やっぱり、症状が出てるんだ。この装置を使用した際に起こる症状ですそれは」
『嘘だ!デタラメだ!』
「自分にだけ聞こえてくる声や文字というものがあって、それが恐怖を煽っているんです。一種の幻覚症状や人格障害に似た状態です。でも、それは一時的なもの。
今日のところは休みましょう。シャイングラスを外してください」
そんなわけがない!これは幻覚なんかじゃない!
「黒木くん!所長のムカイだ。君は混乱しているだけだ。落ち着きなさい」
『殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!』
もうなにが真実なのか、だれを信用していいのか、わからなくなった。
後退りをすると、本棚に手が触れた。
顔を向けることなく、隙間に隠していた包丁を指で探す。
「黒木さん、お願いします。今日はもう終わりにしましょう」
彼女を好きだった気持ちも、もしかしたら操られていたのかもしれない。
俺は包丁の柄を強く握った。
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