ヒロイン side

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ヒロイン side

   はじめまして! 私は那須 柚羽香(なす ゆうか)と言います。  ちょっとした不注意で、事故で死んでしまって……。気がついたら、ファンタジーな世界に転生していました!  しかも、これって、『Chocolat Garden~初恋王子と秘密の花園~』の世界じゃない?  だって私の名前……。  ショコラ・オールディンだし。ヒロインだし! 『Chocolat Garden~初恋王子と秘密の花園~』は、私が近頃ハマっていた、いわゆる乙女ゲーム。  幼い頃に誘拐された、子爵家の令嬢である主人公(ヒロイン)は、領地の端の小さな村で暮らしていた。けれど、偶然に発見され、子爵令嬢として、貴族の子息令嬢が通う学園に行くことに。  けれども、庶民として育てられてきたヒロインに、貴族のことはさっぱり分からない。  すっかり困って泣いていたところを、この国の第二王子を初めとした、イケメンたちに助けてもらう。  最終的には、その中の誰かと結婚してハッピーエンド♪   ……と、いうお話。  うーん、だけど、ヒロインに、記憶つきで転生してわかった。  ヒロインは、村に帰りたいんだよ。  貴族令嬢として着飾って暮らすより、育ててくれたお母さん(私をかわいさのあまり連れ去った、元侍女。2年前に亡くなった)のお墓を守りながら、村でコツコツと野菜を育てて暮らしたい。  キラキラしたイケメンより、村で一緒に育った幼馴染みと結婚したい。  第一、本当の両親だって、私に興味ないじゃん! だからお母さん、私を拐って逃げてくれたんだって、分かったよ。もう、廃嫡して帰してくれ!   そんなことを考えながら、蔭でこっそり泣いていたら、誰かがやって来た……。  あれ? コレもしかして、出会いイベントじゃない?   ヤバイヤバイヤバイ!   イケメンとの出会いなんか要らないよっ。私を村に返して!   と思って、振り向いたら、そこにいたのは、悪役令嬢、ヴィーヴィ・ヴィストラント。  うわぁ! 絶対嫌みとか言われる!   ゲーム中でスッゴい陰湿なイジメしてたもの。  怖いよぉ~!  ……あれ? ヴィヴィさま、優しい。  扇を閉じて、心配そうな顔で、ハンカチを差し出してくれました。  驚いて固まっていると、そっと、そのハンカチで涙を拭ってくれます。  気の強いつり目のご令嬢、と思っていたけれど、今は眉がハの字で、瞳ウルウル。頬はうっすら赤らんで、すっごく愛らしい。  私の涙を拭い終わると、安心させるように、ニコッと微笑んでくれた。ヤバい。美少女の笑顔、パない。  次の瞬間。  私はヴィヴィさまに抱きついてました。公爵令嬢に、子爵令嬢ごときが抱きつくなんて、無礼どころの騒ぎじゃない。だけど、我慢できなかった。抱きついて、その大きな胸の中で大泣きした。  そういえば、お母さんも胸が大きかったな。前世では、悪役令嬢の胸の大きさにイラッとしたものだけど。今はすごい安心感に包まれる。  と、ふいに引き剥がされて、誰何された。  あ、王子さまだ。攻略対象者。ヴィヴィさまの婚約者。なんてお似合いの素敵なカップルなんだろう。  ぼーっと見ていたら、怒鳴られた。  ビクッとしたら、ヴィヴィさまが庇ってくれた。やっぱり優しい。  もしかして、ゲームでも、王子より先にヴィヴィさまに出会っていれば、ヴィヴィさまもあんなイジメはしなかったんじゃ?   こんなに可愛くて、優しいヴィヴィさまが、イジメとか、なんか似合わない。  とっさに、私はヴィヴィさまにお友だちになってほしいと言っていた。  貴族のことが分からない。教えてほしいと言って。  王子さまが渋い顔をして反対してるけど、優しいヴィヴィさまが、にっこり笑って了承してくれました。  ヤヴァイ、ヴィヴィさま。あきらかに女神です。尊い。  うむ。私はこれからヴィヴィ教に入信しよう。前世も現世も宗教には疎いけど、ヴィヴィさまについていけば間違いない!   私はがんばった。  貴族には、よく分からない決まりやしきたりがたくさんあったけど、ヴィヴィさまが丁寧に優しく教えてくれたので、私でもだんだん、なんとか見られるようになってきた。  貴族社会は怖いけど、ヴィヴィさまがそばにいてくれたから、なんとかなった。  回りには、ヴィヴィさまが連れてきてくれた、優しい貴族令嬢もいてくれて、イジメられることもなく、勉強もなんとかついていけた。  けれど……。  ダメだ。  やっぱり私、村に帰りたい。  貴族は前ほど怖くなくなったけど、やっぱり世界が違うな、と思う。  両親はあわよくば、高位貴族を捕まえてこい、なんていうけど、そんなのいやだ。  やっぱり私は……彼を忘れられない。  ヴィヴィさまに、相談することにした。  貴族になりたくないと。  村に好きな人を残しているということを。  両親とは仲良くなれそうにないし、貴族として結婚するのは、気が向かない。  村に帰って、ただの村人として生きたい。私は、貴族の血が入っているのかも知れないけれど、やっぱり庶民なのだと。  嫌われるかもしれない。  幻滅だってされるだろう。  そう思っていたけれど、やっぱりヴィヴィさまは魂から清い方だった。  扇もあてず、滂沱の涙を流して佇む、ヴィヴィさま。  やがて、その御手を差し出すと、私の背中を抱えて、辛かったね、と言ってくださった。  私はまた、その柔らかなお胸で大泣きした。  大丈夫。もう、大丈夫だ。  もしも、これで村に帰れても、  帰れなくても。  私には、ヴィヴィさまがついていてくださる。  ヴィヴィさまが導いてくださって、  ヴィヴィさまが味方でいてくださる。  ヴィヴィさまが存在さえしていてくださるなら。  私は、何だってできる。 「ヴィヴィさま。私にできることなら、私に手伝えることなら、なんでも言ってください。死力を尽くしますから」  そう、伝えると、ヴィヴィさまは目を真ん丸くして、それから慈しむように微笑んだ。 「大丈夫。私がきっと、ショコラを村に還してあげます」  そこから、  ヴィヴィさまが、何をしてくださったのか、私は知らない。  ただ、少し無茶もしたらしいことを、王子さまの苦言で知ったぐらい。  私にできることは、何かないかと何度か聞いたけど、充分してもらっているとか、自分自身のためでもあるから気にしなくていいとか、どうか貴女らしくそのままでいてとか、なんとも要領を得ない。  そしてそのまま、私は卒業と同時に貴族位を剥奪。村の周辺で過ごすようにと、お達しを得た。  私は、茫然とした。  なにもないまま、私は望みのものを得た。  しかも、ヴィヴィさまは、卒業と同時に結婚なさってからも、友達でいてほしい、などと言ってくださった。  ああ。  何て方なんだろう。  私は一生、彼女の信徒であろうと思いました。  村に帰って、幼馴染みと出会って。 「なんで戻ってきた」  と、言われました。  思いっきり、横っ面ぶん殴ってやりました。 「4年離れても、あんたのことが忘れられないからでしょーが! 責任とれ!!」  これが、プロポーズの言葉になりました。  今は家族5人、のんびり楽しく過ごしていますよ。  乙女ゲームのハッピーエンドなんか、ろくなものじゃないです。
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