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「私ね、こういう世の中になって、恋人とかつきあうとかってことの重さが増したと思うの」
「どういうこと」
「だって、気軽に会えないでしょ。会うことに覚悟がいるようになったでしょ。不要不急じゃないかって自問自答しなくちゃいけない。相手のことをどれだけ信頼しているかとか、どれだけ大切で会いたいかとか、本気で考えなくちゃいけない。実際に会う恋人って、きっと、とても重みがあるんだと思う」
たしかにそうだね、とわたしは頷いた。
「じゃあ、優さん。わたしと会ってくれる?」
口をついたのはそんな言葉だった。
優さんはちょっとびっくりしたような顔をして、
「香穂は、香穂が会いたいって思う人と会えばいいんだよ。私とは、私の原稿のためにつきあっているだけでしょう?」
返す言葉がなくなった。楽しそうにしていた優さんの心がわからなくて。
わたしの提案にのってくれた優さんは、けれど、わたしに恋心は抱かない。
それでもいいと思っていた。わたしにとって優さんは、やっぱり好きな人だから。愛してる、多分、そう。
ふと、虚数と答えたことを思い出した。
最後に優さんとおやすみを交わした。わたしはちゃんと、笑えていたかな。
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