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エレナ女史と資産管理部の仕事
財務庁資産管理部。
王家の資産管理および、国宝や文化財を管理する部署だ。
エレナは最近王妃が購入した装飾品から近衛騎士団が新しく建築した兵舎の細部まで目録を作っていく。
現場で細かく記したメモから正式文書を淡々と次々に作成する。
癖のない真っ直ぐな焦茶色の髪をひっつめてまとめた髪をネットで覆い、顔も化粧気がない。清楚感はあるが非常に地味なエレナは資産管理部の中で一番仕事ができる。
ざっと作成した書類をまとめ、それぞれの部署ごとにまとめて、それぞれの羊皮紙のフォルダに振り分ける。
そして、そのフォルダを持ち、立ち上がった。
上司である管理部室長(部長ではなく室長という決まりがある)の机の前に出来上がった書類を置く。
「確認の上、承認印をお願いします」
室長は人の良さそうな小柄なおじいちゃんだ。
にこにこしながら、ご苦労様と言って、サインをしていく。
十数枚の書類に全部サインをして揃えて、エレナに返した。
エレナはそれを受け取ると、資産管理部を出て、目録を実際に管理するそれぞれの責任者に確認のサインをもらいにいく。
リストの中に第ニ騎士団の目録があった。
エレナは一度その団長がいる執務室の前に立つと、一つ深呼吸をしてから、ドアをノックした。
中から出てきたのは、エレナが会いたくない人物だった。
「なんだ。管理部のヒラ役人じゃないか。団長になんの用だ」
「先日の第二騎士団で購入された備品の目録を作成しましたので、団長に確認のサインをいただきに参りました。事務長」
「団長はいまお忙しい。後でまたくるがいい」
「アポイントメントは頂いております。ご確認を」
「バートン事務長、管理部から聞いている。通せ」
おや?とエレナは眉を顰める。
知ってる第二騎士団長の声ではなかったからだ。
事務長は忌々しそうに、エレナを執務室に通した。
その様子を一切見ることなく、失礼しますと入室する。
奥の執務机に座っていたのは、やたらとキラキラしい騎士だった。
第二騎士団長は先日まで厳ついハゲ親父だったはずだ。
「失礼ですが、ゴードン様はご在席ではございませんでしょうか?」
「ああ、ゴードン殿なら、先日の出動で腰を痛めてしばらく療養することになった。私は一昨日から代理として就任したハウゼンだ」
「これだから下っ端役人は。騎士団の人事も把握できていないとは嘆かわしい」
バートン事務長は嫌味をはかなければ生きていけない病なので、あえて発言は聞かなかったことにした。
「了解しました。では、先日、第二騎士団の
兵舎で購入されて備品の目録です。お分かりになりますでしょうか?」
「すまないが、一昨日来たばかりなので、詳細は分かりかねる」
「そんな些細なことをきたばかりの団長が知るわけないだろう」
謎の勝ち誇ったようなバートン事務長に、エレナは、では、と向き直った。
「左様ですか。しかし、些細なことでも王宮の支給品ですからご確認いただき、責任者としてサインを頂かなくてはなりません。ちょうどバートン事務長もおりますので、貴殿からこの目録についてのご説明をハウゼン様にしていただきたく」
「は?なんで私が!」
「あなたは第二騎士団の事務長なので、この目録の備品を手配した際の申請書にサインをしているはずです。サインをしているということは、備品の購入の必要性や経緯、詳細な個数なども把握されているはずなので、私の様な外部の人間よりはふさわしいかと」
「確かに。管理部の方の言う通りだ。今から書類を用意するより手間がない。すまないが、教えてくれまいか?」
バートン事務長は、はい、とも、いいえ、ともつかない返事をして、エレナが差し出した目録を説明していくが、目録にある品名や個数以外の情報を伝えることはできなかった。
「なぜ、こんなにも多くのテーブルや椅子が必要だったのだ?」
「それはですね…」
バートンは言葉を詰まらせて、答えを考えている様だ。
「それは、兵舎に併設されている食堂の備品で従来のテーブルと椅子の老朽化に伴い、今回一新されるそうです」
淀みなく答えたのはエレナだった。
そして、それ以外の項目について、詳細な経緯や配置場所を説明していく。
「なんだ、知っているなら貴殿が初めから説明すればよいだろう」
「いや、本来騎士団側が目録の整合性を確認しなければならないが、私が事前に来ることを知りながら何も用意していなかったのがいけないのだ。手間をとらせてすまなかった」
恥ずかしげもなくそのようなことを言う事務長にエレナが唖然としていると、ハウゼン団長が謝罪する。
「いえ、無事サインがいただければ問題ありません。お手数をおかけしました」
恥をかかされて顔色を変える事務長など気に留めず、サインされた書類を促し受け取ると、エレナは一礼して退室した。
その際に事務長がエレナだけ聞こえるように言った。
「倉庫管理風情が、身の程を知れ」
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