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財務庁資産管理部の保管庫には国が管理しているもの全てを記録し、目録を保管している。
王家の財宝や備品倉庫は別にあるがその管理もエレナ達の仕事だ。
作成した目録の全てに各部署の承認サインをもらったエレナは目録を倉庫のそれぞれの棚にしまっていく。
各部署を回って、すでに遅い時間になってしまっているため、管理部に人影はない。
そもそも、ここに在籍している人たちは仕事熱心ではないし、さらに言うと熱心にする仕事もない。
方々にいって仕事をしてくるのはエリナだけと言っていい。
つまり、ここは閑職部署なのである。
閑職ではあるが、仕事もあり、給料もそこそこもらえるため、エリナにとって不満は何もなかった。
王宮で仕事をしていられるということに意義があったからだ。
王宮の文官になるためには、試験がある。
エリナは教会の学校で勉強の面白さを知り、自ら知識を得るために図書館に通いつめ、そこで出会った司書の人に文官の試験のことを知り、独学で試験勉強をして、見事合格した。
ど平民であるエレナにとって、それは幸運だと思っている。
学校よりも家の手伝いをさせる親もいる。とくに女性は仕事をしなくてもいいという考え方から学校に通わすよりも家事手伝いをさせる親もいる。
その中で、教会の学校に通わせ、エリナが働かなくてもいい経済力がある親、図書館がある環境、さらに司書との出会いがあって、この道が開けたのだ。
そして、文官の仕事は楽しい。
仕事をして書類を見たり、作ることが楽しいエリナにとって、文官は天職だと思う。
ただ、楽しく仕事をしているだけなのだが、バートン事務長のようになぜか、エリナをよく思わない人が少なからずいるようだ。
今日第二騎士団以外に王妃の管轄で得る女官長にサインをもらいにいくと、少し嫌な顔をされた。
「わざわざ、こんなものまでリストにするなんて」
と言われたのは、王妃が購入したカフスだった。
「そうなんですよね。王妃さまが使用されないものに関しては、目録の必要もないのですが、何故かこれだけ使途が分からなくて…」
王妃が購入して下賜される物品は多々ある。
それらに関しては王家の所有物ではないため、目録には記載しない。しかし、下賜目的でないもので、しかも高額なものになると、資産管理の観点から目録に記載さる。
エレナは陛下へのプレゼントか何かで、陛下が使用すればどのみち管理がこちらになるので、目録に追加しておいたが、女官長の様子では違うらしい。
「下賜品の記載漏れでしょうか。では、目録からこちらだけ削除させていただきます」
「それがいいわ。目録から完全に削除して、書き直したものを持ってきたらサインします」
一行だけ削除することはできないので、目録の作り直しだが、エレナはわかりましたと、承諾して女官長の元を後にした。
その時も去り際に、そんな目録を作るから面倒になるのだ、と言われた。
とはいえ、作成しておかないと、管理ができない。
ど平民のエレナがドン引きするぐらい高価な装飾品を保管・管理しなければ、紛失にも気づかずに損失になるのではないか。
と思うのだが、女官長には別の問題があるらしい。それを教えてくれる人はいないが、自分の預かり知らぬ何かあるのだろう。
なにせ、あの女官長も貴族だ。
平民と貴族では、相いれぬことがあるのは生きていればわかるものだ。
そういえば、バートン事務長も貴族だっか、卿の称号をもっていたか。
なるほど、自分と考えが違っても不思議はない、と納得した。
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