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人生には予期せぬ出来事がつきものだと思わないか?
いいことが起こったと思えば、次の瞬間には悪い事が起こっている。
まるで好況と不況を繰り返す経済と同じではないか。
だから、幸せの絶頂を迎えようとしている今、心構えをしていた。
これからどんな不幸が待ち受けようとも、乗り越えよう、と。
たとえ数十回にも及ぶアプローチを経てやっと両想いになった女性が、実は既婚者で、しかも子持ちだったと分かっても…ね。
***
ここは夜景の綺麗なレストラン。
30階建てビルの最上階にあるので、周りの景色を一望できる。
下界の建物は小さな点の集合体のようにきらきらと輝いている。
僕はここでプロポーズをした。
数百回にも及ぶイメトレと、友人を前にしての実練。
準備はバッチリだった。
食後に自然な流れで指輪を取り出して「僕と結婚してもらえませんか」と言った瞬間、彼女の弾けるような様な笑顔を見た。
「…これはイケる!!!」と喜んだのも束の間。
彼女は静かに泣き出した。
「…私、娘がいるの…。離婚した夫の子どもで、今年4才になったんだけど…」
ん? ムスメ? 娘? 夫?
驚きすぎて何も言えなかったが、彼女は僕が返事に困ったのだと解釈したらしい。
「…ごめんなさい。もっと早く言えば良かったのに…」
「謝らないでください、僕が急にプロポーズをしたのが悪いんです!」
頭の中の冷静な自分が「プロポーズは普通、急にするものでは?サプライズ的に」とツッコむ。
「えっと、だから大丈夫です。いや、大丈大じゃないけど!」
それでもなお「ごめんなさい…」とひたすら謝る彼女を前にして、僕は、取り出した時と同様ナチュラルに指輪ケースを自分のポケットに仕舞った。
***
2日後、プロポーズ練習に付き合ってくれた友人が結果を聞いてきた。
「なあなあ、あれからどうなったんだよ~?」
腹ただしいほどのニヤニヤ顔だ。プロポーズが上手く行ったと思っているらしい。
「……」
「……え、何!?フラれたわけ!?あんなに練習したのに!?」
彼はこれまで何度も相談に乗ってくれたし、プロポーズの練習にも付き合ってくれた。何も言わないのは申し訳ないので仕方なく打ち明ける。
「彼女は喜んでくれたけど、結婚はしないかも…」
「どゆこと!?」
かくかくしかじか。
「へ~。君の彼女にそんな秘密があったとはね…」
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