画面から飛び出した彼女

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──二月十四日。世では『バレンタイン』のイベントで目を開けても耳が拾うほど甘く蕩けるような音楽や文字、言葉が溢れている。 外国では男女関係なく好きな人に贈り物をするらしいが、今の僕にとってそこが重要ではない。 『やっほお〜!まよねーずさん、はじめまして〜。私、天茉(てんま)しおりだよ〜』 指定されたルームに入るなり、彼女は手をひらひらさせてにっこりスマイルを僕に向けている。燃えるような赤い髪は頬までの長さに、ツインテール。目元はビビットなオレンジ色を足している。画面の奥は光り輝いていて、薄暗い部屋にしおりんの明るさでほんの少しだけ部屋が良くなった気がした。 「はっ……じめ、ましって……!まよ、ねーずです……」 「あはは〜知ってる、知ってる〜。今の私はまよねーずさんだけのしおりんだから、気にせずゆっくり話してね」 吃る僕に対しても思いやりがある対応に目の奥から水がせり上がってきそうで、袖で抑えた。 因みに『まよねーず』とはレンタルラビットに登録している僕のユーザー名だ。レンタルラビットはいわゆるレンタル彼女を提供しているところであり、プレゼントを送る相手も送ってくれる子もいない、一人のバレンタインを二十一回迎えることに我慢出来なくなった僕は、勇気を振り絞って今回、レンラビのキャストである彼女を指名したのだ。 今日は八時間やってくれるコースにしたし、きっと……大丈夫!! 『ねえねえ、まよねーずさんはアニメが好きなの?』 パソコンのライトで薄青く壁に浮かび上がるポスターを見たのだろう。彼女は笑みを絶やさず、質問してくれ、僕は答えなくては……と口を開ける。 「私もルル・キキ好きだよ〜」 この一言で、スイッチが押された気がした。いや、確実に押された。 「そ、そうなんだ……!僕もずっとこのシリーズが好きなんだけど、特にこの十五代目キキルは魔法使いでありながらも人間を助けようともしないし、同族からの嫌われ者なんだけど、それは彼の力が皆に災いをもたらすからだと自分で理解しているからなんだ。一見、ただの俺すげえ奴に見せておいて、本当は交わって遊びたい少年心を持っているのが、僕に無いものがあって凄いな……って」 息つく暇もなく喋り終えて、僕ははたと気付く。もうその時には既に遅かったが、優しい彼女がどんな反応をしているかすら見れず、顔を伏せる。
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