オンライン自分

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 何が起きたのか全くわからない。  いや、何が起きたかは分かっている。過去の自分と繋がったのだ。それがなぜ起きたのかは全く分からないが。  とにかく、オレが在宅で使用している仕事用のオンラインシステムが、過去の自分とに繋がったのは確かだった。 「誰です?」 『そちらこそどなたです』  最初の接触は実に間抜けな会話だった。同じ顔の二人が混乱したまま、通話は途切れた。その後、しばらくの間はオンラインシステムは正常に働いた。  次につながったのは一日半後だ。 「もしかしてオレ、か?」 『そんな気がするぞ』  と、お互いが自分らしいことに気が付き、通話が終わる。再び一日半後。 「そっちが過去だな」 『そっちは未来か。約四年、タイムラグがあるな』  それで終了。この時点で、通話が123秒で切れていることに気が付く。そして一日半——これが12345秒後に当たることにも気が付いた。そしてオンラインの向こう側との時差が、123456789秒——三年と333日と少しであることまで分かった。この数字自体に何の意味があるのかは、やはり分からないままだが。 「で、これ、宝くじとかで使えるんじゃないか」 『試してみよう』  通話時間は約2分しかないものの、パターンは分かった。次の通話までに、オレは向こうの時間の競馬の結果を調べて伝えた。果たして一致した。 「よし、小さく当ててみよう」 『数十万くらいの結果がいいな』  小さく当たる数字選択式の結果を伝え、次の通話で結果を確認した。 『当たったぞ!』  繋がった直後、画面の向こうのオレが興奮気味に伝えてくる。 「よし、次はもう少し大きく——待てよ、俺の資産も増えてるのか?」 『そりゃそうだろ』  俺は期待して自分の口座を確認したが、全く変動していない。 「おい、増えてないぞ」 『そうなのか? でもこっちは当たったし、口座に入れてるぜ』  オレ達はそれから二回、数百万の当たりを取り、検証した。その結果、それらの結果がこちら——未来に反映されることがない、ということだけはっきりとした。過去のニュースを調べて伝えると、事件や事故など起きることはやはり同じで、世界そのものはつながっている。ただ向こう——過去に起きたことがこちらに反映されることがない、というのは確かなようだった。 「教え損じゃねーか……」 『世界線のずれ、というやつかもしれないな』  向こうのオレは気楽そうに言う。それはそうだ、もうだいぶ稼いでいるのだから。 『でもお前、というかオレが損してるわけじゃないんだから、いいだろ』 「そうなんだけどさ」  ふう、とオレはため息をつく。楽して稼ぎたい、と自分は常々思っているわけで、向こうの自分だって同じだ。まあ、宝くじの大当たりを教えることもやぶさかではないが——。 「あんまり大儲けするとずれが大きくなりすぎて通話ができなくなるかもしれない。ちょっと金稼ぎは保留して、もうちょっと情報交換をしよう」  こちらが儲かる手段を考えないとな、とオレは改めて心に誓った。  未来の情報を手に入れる、と言うのは紛れもなく勝利の方程式だ。  だが、過去の情報を手にすることができたとして、それが何になる?  過去は誰もが通ってきた道だ。起きたことはもうみんな知ってるじゃないか——。 『おい、良いこと思いついたぞ』  繋がった途端、過去のオレがドヤ顔で映っていた。自分ながら何となくうっとおしい。 「何だ?」 『儲ける方法。あるぞ』 「おい、教えろ!」  オレは思わず身を乗り出す。 『良いか、まず——』  時間に制限がある、と言うのは面倒だったが、何とかなった。未来の情報から、必要な過去の情報を調べるのだ。  報奨金制度。  過去に起きた難事件に対し、報奨金が出る制度というものがある。  幸いにして——と言って良いかどうか迷うが——過去のオレに調べてもらうことができる事件があった。  もちろん細心の注意を払う。バレるのも困るが、事件が起きないのも困る。あからさますぎる情報は犯人扱いされかねないし、そもそも自身に危険が伴う。  とまあ、過去のオレには頑張ってもらって、オレは何とか三百万を手に入れた。 『オレ、自分から言ってなんだけど、もうあんまりやりたくねーわ』  うんざりしたように過去のオレが言う。次に大きな当たり番号教えるからと、かなり無理を言ったのだ。 『それに、もうちょうど良い事件なんてないぞ』 「それなんだけどさ、アメリカ行かないか」 『アメリカ?』 「ああ」  オレは頷く。 「あっちは日本と違ってそう言うシステムが沢山ある。資金はオレが時々番号とか送ってやるから、信用できる代理人に買ってもらったりしろ。どうだ」  多分乗ってくる——と思った勘は当たる。まあ自分のことだから分かるのだ。 『そうだな、どうせ仕事もしたいわけじゃないし、ある程度金が入るなら問題ない』 「よし、頼むぞ」  ブツッ、と通話が切れた。時間だ。  やれやれ、やっとこっちで楽して稼ぐ手段が出来そうだ。  ウキウキしていたオレは、通話時間の結果が122と表示されていることには気が付かなかった。
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