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心の中の焦りにも似た感情を押しころすために、あたしはがらんとしたモールの廊下を勢いよく走った。するとすぐさま機械的な声で、施設内ではルールを守って他のお客様の迷惑にならないようにご利用ください、とのアナウンスが入る。臆病な自分は、そのアナウンスに従って目に見えない他の客の邪魔をしないようにそっと忍び足をするようになった。
チョコレート専門店の前でふとその忍び足を止め、ガラスのショーケース内に並ぶ高級チョコの品定めをしようとした。今日くらい、自分にご褒美あげなくちゃね。お客どころか店員の姿も見えない店だったけど、またもやさっきの機械的なアナウンスがあった。
“ただいまこの店をご利用しているお客様は214名いらっしゃいます。オススメの商品は、当店1番人気のトリュフ・ダブルストロベリーです。”
あれ、あたしの好きだったあずきチョコバーがなくなっている。
“当店の新システムとして、アンケートによってランキングを作成致します。ランキング上位10種類だけ残して毎月新商品を90種類用意し、常に100種類の中からお好きな商品を選べるようになっています。”
毎回そんなに変わるんだったら、あたしの好きな商品どんどんなくなっていくじゃん。まあしょうがないか。売れなきゃ商売にならないもんね。あたしだってコンビニ店員として、商品のラインナップ入れ替えの大変さは知っているから。でも、近所のおばあちゃんに、あのいつも食べているおせんべいが欲しいってせがまれちゃあ、店長に頭下げて入荷してもらっちゃうんだよね。だからウチのような有人の店舗がなくならないのかもしれないけれど。
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