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“いらっしゃいませ、ムーンマートへようこそ!”
「てんちょー、こんにちは。」
とほうにくれたあたしは、いつのまにかバイト先のコンビニに来ていた。
「なんだい、飯藤くん。今日はシフトの日じゃないよ。」
「いえ、今日は用件があって。てんちょー、一生のお願いです。」
「え? なに、時給もっと上げろってか? それとももうシフトに入れない、とか。残念だけど、おまえやっとプロのパントマイマーとしてひとり立ちできたんだなあ。オレはうれしいぞ!」
「て、てんちょー、違うんです。いや時給は上げてくれたらうれしいけれど。あの、その、入荷してほしい商品がありまして。」
「なんだ、客として来たのか。もちろん、ムーンマートはなるべくすべての客の要望を叶えることがモットーだからな。ばあちゃんがせんべいが欲しいって言えば、入荷してやるし、腹すかせた貧乏人がいれば、出血大サービスしてやるのがムーンマートだからな。で、何がお望みで?」
さすが今では珍しい江戸っ子気質のてんちょー! 持つべきは人情深いてんちょーだな。
「じつは、今日バレンタインデーじゃないですか。それで。」
あたしはてんちょーに今日の出来事を話した。
「てなわけで、てんちょー、おしるこ缶入荷してくれますか?」
「あのう、舞くん、わざわざおしるこ缶じゃなくても、あずきチョコバー自体を、そこの店のものじゃなければ入荷できるぜ。」
「え? ああ、そうか。あーでも、あたしあそこのあずきチョコバーだから好きだったわけで、今はむしょーにおしるこ缶がすすりたくなって。」
「ほー、そう言われるとわしもおしるこ飲みたくなってきたの。昔はどこの自動販売機にも売っておったんじゃが、最近はあまり見かけなくなってしまったからのう。」
てんちょーとの会話に割り込んできたのは、例のおせんべいを毎回買うおばあちゃんだった。
「あの、最後のほうあずきが缶の中で引っかかっているのを必死に吸うのがいいんじゃ。」
「そうそう、おばあちゃん。アレがいいんですよね。ほら、おばあちゃんも望んでいることですし、てんちょーお願いします!」
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