対談

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9月の下旬、今日もあの子達に合うのか。なんで私学校通ってんだろう?分かんない。あんな豚の詰所にいてなんで笑ってられるんだろ?あの子達も私もその理由は分かんない。言葉にできない。私たちは私たちのいる世界を知らない。寒い。寒い中で私は歩く。ただ一歩一歩踏みしめている足の裏の感触には実感が湧く。 誰かが話しかけてきた。知らない。私は、そうケントくんがいれば正気を保てる。 何気なく見たドラマにケントくんはいた。演じてたんじゃなくてケントくんはいた。その空間に。静かに。 こんな綺麗な人、というかものこの世の中にあったんだって思った。女の人を綺麗だと思ったことは何度もあった。でも男の人をこんなに綺麗だって思ったことなかった。女の人の綺麗は足し算で男の人の綺麗は引き算だってその瞬間に思った。きらびやかなアクセも髪も無いのにこんなに綺麗なんてと溜息が出た。他のアイドルや漫画のキャラクターとか好きな人やものはあったけどケントくんは違った。 何よりバランスが良いと思った。 ドラマのお話を邪魔しないで嫌味じゃなくて情報を足さなくて、ケントくんじゃなきゃ私の頭はパンクする。処理が追いつかない。ケントくんの綺麗さが私の感知できる最大限でそれ以上なら私は鬱陶しい。以上も以下でもないジャストなんだ、私の求めていた綺麗さ、美しさはケントくんそのものだって気づいた。 そこから私はケントくんに関する全ての情報に興味を抱いて貪るようにそれらを摂取した。過剰な塩分みたいに貪れば貪るほど、喉が渇いて耐え切れなくてまた貪った。苦しくなるくらいに頬張って疲れて眠らなければ、浅い眠りにケントくんが現れてその眠りの中でもまたケントくんを貪っていた。ずっと飢餓感が収まらなくていつも夢の中にいた。 また誰かが話しかけた。誰?声からすると同じクラスのあすかかな?分からない。いつも喋ってばかりの子だけどきっとこの子はケントくんを知らないからこんな無駄な時間と労力を費やすんだ。ケントくんの声、指、顔、仕草を知ったなら頭の中が忙しくて仕方ないのだから。 ケントくん今何してる?いつもドラマや映画の撮影で疲れていない?ツイート見ると優しいことばかり言うから却って不安になるよ。私知ってるから。何度も見たから。ケントくんが自分の為じゃなくて皆んな、そして私の為に笑ってくれて微笑んでくれていること。 なんかずっと囃し立てるあすかとは違うね。この子は自分の面白いことにしか笑えないから。誰にも寄り添ってはいないから。
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