対談

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ケントくん、ヤマザキケントくん、日本の俳優で声も顔も指も内面も私は好き。他はどうでもいい。好きなものが中心にない人は嘘をついている。その場をやり過ごすために何となくスマホを開いて何となく近くにいる人と話して何となくご飯を食べて何となく寝て。そうした無意識にだらけ切った人々の姿勢は「平和」という皮を被って私の思考を奪おうとする。「夢」という手垢のついた言葉で「未来」を人質にして私の思考と今確実に存在するこの幸福を奪おうとする。 分からない。なぜそんなことを私が考えているのか分からない。明確な誰かが私を直接脅かしてはいないのに。実態がない敵が実態のない手段で実態のない私の幸福を奪おうとしている。 何、この変な話。馬鹿げている。でもそんな実態のない敵、いや実態のなさが敵の本質かもしれない。その敵が、私の脳裏によぎる敵がゆっくり私の幸福を冷たく浅黒い手で掴んで、遠い場所へ投げ去ってしまう。全てそんな気がする、だけの話。何、分からない。9月の不意を突いた寒さの性、それとも相変わらずうるさい中身のない話をするあすかの性。 分からない。なんでこんなことを考えているのか。考えさせられているのか。分からない。気持ち悪い。これも敵、敵の仕向けていること。ぼんやりとした大気、季節、気温全て敵、漠然としたもの全て敵。私はあすかのことも知らない。他のクラスメートのことも、よくよく考えればお父さんとお母さんの誕生日のことも知らない。いや忘れる。忘れたくないことも忘れる。印象に残らない、意識しないと残らない。曖昧で漠然で理解できないもの、もう全て敵。かつて味方でいてくれていても状況が変わってしまった、あなたと私は考え方が違う。だからやっぱり敵。 私はケントくんを見ている。ケントくんの笑顔、薫ってきそうな艶めいた髪、私の中で全てが満たされる。
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