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本当はいつもの居酒屋に飲みに行くはずだった。緊急事態宣言を恨めしく思いながら、パソコンの電源をつける。外に出れないから、大学で同じサークルだった私となるみと町田くんでオンライン飲み会をすることになったのだ。
「春奈久しぶり!」
画面の向こうでなるみが手をふった。私もつられて手をふる。直接会えなかったのは残念だけれど、今日は思いっきり話すつもりだ。今日のために仕事は全部片付けた。手元に用意したレモンチューハイはキンキンに冷えているし、おつまみだって奮発して買ったローストビーフだ。
「あ、ちょっとなに? もしかしてとうとう彼氏と同棲始めたの?」
私が喋ろうとしたタイミングでなるみが続けてそう言った。
「なに言ってんの。そんなわけないでしょ」
オンラインだとどんなタイミングで喋ればいいのかがわかりづらい。とりあえず、なるみの言葉は否定して、言おうと思っていたことは飲み込んだ。
「あれ? じゃあ見間違いかな、後ろに人が見えた気がするんだけど」
なるみの声と同時に、ピコン、と音がしてちょうど町田くんも通話に加わった。
「あ、町田くん久しぶり」
「町田遅いよー」
「あ……あ……」
町田くんの声は聞き取れず、オンになっているカメラも画質が悪かった。なにかを伝えたかったのか、画面を指さした状態で町田くんがフリーズする。
「町田くん、ごめん音声よく聞こえない」
言った瞬間に町田くんが退出した表示になった。おおかたWi-Fiの調子が悪いとか、そんなところだろう。こういうところがオンラインの面倒なところだなあと思う。直接会えたら、もっとストレスなく喋れたのに。
「町田くん、落ちちゃったね」
「Wi-Fiの調子が悪いのかな」
「あたしも最近回線遅くてさぁ、マンション共通のに入ってるからだめなのかな」
なるみが髪の毛を弄りながら言う。家の中なのになるみは髪を綺麗に巻いているし、メイクもばっちりだ。
「てか今ちょうど町田もいないし、もったいつけないで言っちゃいなよ」
同棲してるんでしょ? と、彼女の大きな瞳がぐっと画面に近づく。カマをかける作戦なのだろう。もちろんそんな事実はない。
「だからいないって」
否定するけど、画面の向こう側でなるみは納得できないような顔をした。
「てか実はさぁ、先月別れちゃったんだよね」
「……え?」
私が切り出すと、なるみが大きな瞳をさらに大きくする。そりゃそうだ、私も驚いたんだから。別れた彼氏とは、それこそ同棲も考えるくらい真剣につきあっていた。
「ほんと聞いてよ~、別れ方が最悪でさぁ……」
はぁと大きくため息を吐く。今日はこの話をしたかったのだ。このまま話し出そうとしたのに、なるみが遮るように言った。
「ねえ、じゃあ春菜の後ろにいる人は、誰?」
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